2018/07/17【三山春秋】〈いく眠り過ごしし春蚕すでにして…
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ▼〈いく眠り過ごしし春蚕すでにしてとほる白さに糸吐き初めぬ〉。皇后さまの御歌には養蚕を詠まれたものが多い。歌には愛情があふれ、蚕に特別な思いを寄せている様子がうかがえる。来年4月末に天皇陛下が退位されるため、養蚕は今年が最後。繭を手にした感慨はひとしおであろう

 ▼写真家の石内都さんも絹に思いを寄せる一人だ。6歳まで桐生で過ごし、横須賀に転居した。幼少期に聞いた蚕が桑をはむ音、蚕室の匂いは深く記憶に刻まれた

 ▼被爆者の遺品を撮影した「ひろしま」シリーズで国際的に注目を集めた。そんな石内さんが次に目を向けたのが絹。被写体となったワンピースや着物が記憶を呼び起こし、導かれるように桐生に向かったという

 ▼ここで桐生織塾が所蔵する銘仙の数々に出合った。驚くほど斬新なデザインと色使い。それをまとった女性たちの夢やぬくもりが伝わってくるようだった

 ▼写真集『絹の夢』に収録した作品は現在、アーツ前橋で3点を見ることができる。企画展示室にはデビュー作「絶唱・横須賀ストーリー」55点も展示され、まるで回顧展のようである

 ▼石内さんは昨年、生まれ故郷の桐生に居を構えた。何にレンズを向けるのかはまだ決まっていないというが、桐生は織物の伝統と職人の誇りが息づく街。いつか結実するであろう新作が楽しみだ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事