2018/08/05【三山春秋】「神は細部に宿る」。文章で言えば…

 ▼「神は細部に宿る」。文章で言えば、小さくて目に見えにくい部分を心を込めて丁寧に描くことにより、本質が浮かび上がるという意味だろうか

 ▼前橋市出身の児童文学者、木暮正夫さん(1939~2007年)の小説『時計は生きていた』(1971年、偕成社)を読み返して浮かんだのは、この言葉だった

 ▼535人もの命が奪われた前橋空襲までの市民の生活を、子どもたちの視点で描くこの作品には、前橋の旧町名をはじめ市民になじみ深い施設などの名がふんだんに使われている

 ▼〈麻屋は、市内でただひとつの百貨店である。麻屋のまえをとおって、弁天通りにはいり、広瀬川にかかる比刀根橋をわたり、竪町の電車道にでた〉〈正幸寺の門を出ると、左にまがった。馬場川ぞいの道である〉

 ▼通常なら読み流してしまうかもしれない前橋のまちの描写である。しかし、子どもたちが戦争に巻き込まれていく過程や、凄惨せいさんな空襲の場面に至ると、一つ一つの場所への深い愛着と、そこが焼かれ、人々が殺される戦争の理不尽さへの怒りが込められていることに気付く

 ▼前橋空襲から73年のきょう5日、市内では小説に出てくる寺や神社、教会など9カ所で一斉に鐘を鳴らし慰霊する催しがある。戦争を二度と起こさせないために、被害をできる限り細部まで知り語り継がなければと思う。

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