2018/09/09【三山春秋】〈かみつけのとねの郡の老神の時雨…

 ▼〈かみつけのとねの郡の老神の時雨ふる朝を別れゆくなり〉。沼田市の舒林じょりん寺の一角に立つブロンズの番傘に記された歌。「みなかみ紀行」をつづった若山牧水が、老神温泉まで同行した文学青年、生方吉次に贈った番傘をもとに、1986年に建立された碑だ

 ▼建立に尽力したのは、沼田町(現沼田市)の町長などを務めた生方せい。22年、青年だった誠は親戚の吉次に誘われ、法師温泉に宿泊している牧水を訪ねた

 ▼この出会いが後年、牧水の顕彰を通じた地域振興と観光開発へと誠を突き動かした。72歳で利根牧水会を発足し、歌碑制作に奔走。だが、実現を見ずに78年に84歳で亡くなった

 ▼歌人、生方たつゑの夫で、芸術家で文化人でもあった誠。その人物像を紹介する企画展が17日まで、同市の生方記念文庫で開かれている。自作の油絵や、町長時代に米国視察団として持参した地元児童の絵が並ぶ

 ▼海を渡った絵画の中に同市出身の田村●人よしんどさん(76)=前橋市=の作品もあった。田村さんは美術教師となり、自身の体験から子どもの絵を通じた海外との交流に注力した(先月23日付本紙)。誠のまいた「種」が受け継がれていたと知り心が震えた

 ▼没後40年、誠が情熱を傾けた牧水の顕彰とまちづくりが地元沼田で停滞気味なのは残念だ。誠も草葉の陰で歯がゆい思いをしているだろう。

 ※●は目へんに「月」

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