選手のプロ宣言 リスクとり、道を開く
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 近年、陸上競技界では「プロ宣言」をする選手が増えています。ボストンマラソンを制し帰国の場でプロ転向を宣言した公務員ランナー川内優輝選手や、100メートルのケンブリッジ飛鳥選手などです。

 私も現役時代の一時期、プロとして活動したいと考えていたことがあります。

 バルセロナオリンピック前の冬、アメリカで長期の合宿を行いました。合宿先は、100メートルの世界記録を争っていた、カール・ルイス選手とリロイ・バレル選手が所属するクラブチームです。このクラブには、100メートル世界ランクのトップ10に入る選手が4~5人いたのですが、陸上競技だけで生計を立てているのは、前述の2人だけで、他の選手はそれぞれ仕事を持っていました。

 世界のトップ選手はみなプロとして活動していると思っていた私にはそれだけでも驚きでした。ある日、私と同じ110メートル障害の選手と練習をしていると、彼の腰についたポケベルが鳴り、彼は練習を中断し、帰ってしまいました。後に、彼は看護師で、たとえ練習中でも緊急時は呼び出しがあり、練習はやめざるを得ないと知りました。彼は私より速い記録を持つ選手でした。

 アメリカ人選手の環境の厳しさの一端を垣間見ることになり、私のプロ希望はあっさりと消え、日本の実業団という仕組みの良さを認知することになりました。

 半面、引退後はアメリカ式のメリットも痛感します。それはセカンドキャリアについてです。ポケベルの彼なら例え陸上の成功がなくとも、引退後、スムーズに社会に入ることができたと思いますが、私はそうはいきませんでした。

 28歳で引退し、仕事は実質ゼロからのスタートです。周りの方々に教わりながら、仕事を覚えていくのは容易ではありませんでした。実業団という仕組みの中でなければ、会社に留まり働くことは難しかったと思います。

 20年前、選手の肖像権はJOCが一元管理し、選手自身が自由に使えませんでした。時代は進み、現在はアマチュア選手でも、テレビCM等に自由に出演できています。一方で、スポーツを支えてくれる実業団チームは減少してしまいました。

 選手のプロ宣言はグローバル化する選手のニーズを受け止める仕組みの不在を表しているのかもしれません。

 選手はセカンドキャリアのリスクを抱えながら、競技に集中できる環境づくりをしています。彼らを純粋に応援していただきたいと思います。

 私は、経験者の一人として転職後、現役時代からキャリアについて考えるきっかけづくりを行う、NPOの活動に参加しています。

 この活動は別の機会に紹介できればと思います。



川村学園女子大陸上部監督 岩崎利彦 高崎市九蔵町

 【略歴】陸上男子110メートル障害で日本人初の13秒台を記録。バルセロナ五輪出場。2018年春、川村学園女子大陸上部を本格始動させた。桐生南高―順天堂大―富士通。

2019/01/16掲載

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