外国人との付き合い(2) 海外の多様性に目を
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 東レは1970年代初めに人間の髪の毛の100分の1の極細ファイバーを開発し、人工皮革として製品化した。日米市場にその機能性(軽い、しわにならないなど)をアピールして販売したが、採算に乗る販売量に達しなかった。

 そこで当時の社長がこの技術をイタリアに持って行って生産し、欧州市場に販売する会社を設立する決断を下した。「この素材を高級ブランド品に仕立てあげられるのは、イタリア人である」と。われわれは会社のマーケティングをイタリア人に任せた。

 彼らはわれわれが着目しなかった「この素材の微妙な色の表現力」を市場にアピールし、衣料、家具、車のシート、パソコンのカバー素材と次々に用途開発し、欧州の最高級ブランドに仕立て上げた。今やアルカンターラ社はイタリアナンバーワン企業と評価されている。

 私は14年間彼らの中に入って働き、先に述べた用途開発がどのようにしてなされたかつぶさに見てきた。会社では「自分には新しい提案がある」といえば会議で発言することは誰にでも許される。提案がなされると、四方八方から忌憚(きたん)のない批判が浴びせかけられる。

 その批判に耐える論理的説明ができれば、会社としての検討課題として取り上げられる。

 会議では各人が自分の考えを本音で言い合い、論理的議論を研ぎ澄まして初めて斬新なアイデアが出てくるという固い信念があるように思う。彼らが大人だなと思うのは、そうした激しい言い合いをした仲間と会議が終わると肩を抱き合って社員食堂に向かうことである。日本人だったらお互いにプイとして顔をそむけるであろう。

 このように「一個人」の斬新な提案が会社として取り上げられる可能性があるから、彼らは「会社は自己実現の場」であると考えている。「だから働くことは楽しいのだ」と。

 日本のビジネスは80年代の日本的経営の確立により高度成長を遂げたが、いまだにそのモデルに凝り固まってしまっているように見える。日本ではビジネスとは製品の機能性を高め、コストを下げることと考えられている。ところが、海外にはそれとは違った多様なビジネスモデルを発想し、実践に移す環境があることは上記のアルカンターラ社の例からもお分かりいただけると思う。

 この事例は日本人が持つ「微細を極める」という特性により開発された極細ファイバーとイタリア人の感性に基づく斬新なマーケティングとの幸せな結婚といえるであろう。

 日本人は海外の人々が持つ多様性にもっと目を向けるべき時に来ている。



小林国際事務所代表 小林元 横浜市栄区

 【略歴】東レで欧州、アフリカ、中南米などの海外事業を担当。イタリア政府から勲章を授与される。明治大特別招聘教授。前橋市出身。前橋高―慶応大卒。

2019/02/04掲載

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