宇宙開発と放射線技術 夢実現へ欠かせぬ役割
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 宇宙への挑戦は壮大で、夢があります。人類の英知により夢はどんどん現実味を帯び、宇宙旅行は今や予約受付が行われるようになりました。また、人工衛星を用いた通信放送、天気予報、GPSなどが手元のスマートフォンで扱えるようになり、宇宙は既に私たちの暮らしの身近な存在になっています。

 人工衛星は地球観測、通信・測位、惑星探査などをミッションとしていますが、宇宙で活動するための電力は太陽電池と呼ばれる半導体から供給され、衛星の姿勢制御、観測データの収集や処理、地上との交信などにも多種多様な半導体が使用されていて、衛星ミッションを果たすための重要な役割を担っています。

 地球を取り巻く宇宙は過酷な環境です。高真空で重力はほとんどなく、日なたで120度、日かげでマイナス120度に達する上、宇宙線と呼ばれる放射線が多量に飛び交っています。特に人工衛星に搭載された半導体に大きな影響を与えるのは宇宙線です。宇宙線は太陽や遠い銀河から飛来し、その成分は高エネルギーのイオンや電子です。

 宇宙線が半導体に当たると、太陽電池の出力低下など電気特性が劣化したり、半導体内に異常電流が発生して故障や誤作動を起こします。遠い宇宙では半導体に不具合が生じても修理や交換はできないので、人工衛星に搭載予定の半導体がミッション終了まで宇宙線に耐えられるか、故障しないかをあらかじめ評価しておく必要があります。

 評価試験に使われるのが、高エネルギーのイオンビームや電子ビームが発生できる加速器です。人工衛星に搭載する半導体は、宇宙環境を模擬し、加速器施設でイオンビームや電子ビームを照射して耐久性・信頼性評価試験が行われ、これをクリアしたものだけが選定され実装されます。

 また、評価試験で得られたデータを基に半導体の弱点を洗い出し、その構造や回路に工夫を凝らすなどして弱点の克服が図られ、長寿命で信頼性の高い新しい宇宙用半導体の開発も進められています。

 人工衛星の中核部品である半導体の開発を紹介してきましたが、人工衛星は半導体の他にも熱制御材、構造部材など多くの部材、部品で構成されています。これらの性能は、研究者、技術者の不断の努力により全て極限まで磨き込まれ、この結果人工衛星は長期にわたり安定に運用され、生活に役立っているのです。

 ただ、宇宙開発利用はまだ始まったばかりです。人工衛星を活用した自動車両運転、大規模農業の管理、防災監視システムの構築などは開発途上ですし、現在計画されている宇宙旅行は地上100キロを往復するもので、月や火星への旅行はまだまだ夢の世界です。夢をかなえるため、宇宙開発利用の伸展に向けて今後も継続的に注力していく必要があると思います。



量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所所長 伊藤久義 高崎市綿貫町

 【略歴】1987年に日本原子力研究所(現量子科学技術研究開発機構)入所、高崎研究所配属。2016年から現職。工学博士。専門は物質・材料科学。茨城県出身。

2019/02/15掲載

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