食品照射 合意形成と普及に期待
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 食品照射と聞くと、なぜ食品に放射線が使われるのかと疑問に思われる方が多いと思います。まず食品照射の効用ですが、放射線で食品の殺菌や発芽抑制ができるので、カビの発生や食中毒の防止、保存期間の延長に役立ちます。また、放射線により寄生虫や害虫が駆除できるので、農産物の輸出入で求められる検疫手段としても有効です。

 このため、海外では放射線を使った香辛料や乾燥野菜・果実などの殺菌、肉類・魚介類の殺菌、ニンニクなどの芽止め処理、熱帯果実やかんきつ類・穀類の防疫殺虫処理などが実用化され、広く利用されています。一方、日本では世界に先駆けてガンマ線照射によるジャガイモの芽止め処理が実用化されたものの、他の食品への適用は全く進んでいないのが現状です。

 振り返ると、日本では1967年から、厚生省国立衛生試験所が中心となり、食品照射の総合的な研究が行われました。この結果を受け、72年にはジャガイモのガンマ線照射が許可され、74年から照射芽止めジャガイモの出荷が始まりました。

 その後に反対運動が起こり照射食品の健全性が疑問視されたことから、77年から91年の間に厚生省食品薬品安全センターなどがあらためて健全性試験を実施しました。その結果、健全性に問題ないことが確かめられましたが、消費者の理解が十分得られていないことや事業者のニーズが少ないことを理由に、食品照射に対しいまだ慎重な姿勢が続いています。

 一方、世界では着実に食品照射の安全性評価と規格・基準整備が進展し、80年には国連食糧農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)の合同専門家委員会で照射食品の健全性が確認され、97年には照射食品は適正な栄養を有し、安全に摂取できると結論されました。

 さらに、食品照射はコーデックス国際食品規格やISO規格などの国際基準・規格に採択され、世界各国で食品照射が実用化され普及しています。植物や農産物の輸出入に伴う病害虫の侵入・蔓(まん)延を防ぐための国際植物防疫条約でも、放射線処理は国際的に認知された検疫措置となっており、各国で熱帯果実や穀類などの放射線殺虫処理が実施されています。

 放射線による食品の殺菌、殺虫、発芽防止処理は、従来の加熱や薬剤などを用いる手法に比べ、食物を新鮮な状態で処理でき、色や香り、栄養が保たれる上、薬剤による残留毒性や環境汚染の恐れがありません。放射線処理は食品の品質保持や安全性確保という消費生活の観点だけでなく、農水産物の輸出を伸ばすという産業振興の観点からも大きな利益があるので、日本でも社会的な合意形成が進展し、食品照射が広く普及することを期待したいと思います。



量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所所長 伊藤久義 高崎市綿貫町

 【略歴】1987年に日本原子力研究所(現量子科学技術研究開発機構)入所、高崎研究所配属。2016年から現職。工学博士。専門は物質・材料科学。茨城県出身。

2019/04/16掲載

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