職場内で育む自尊心 「障害」は軽減できる
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 私が横浜に住んでいた数年前、横浜駅で異様な光景を目にしました。朝の通勤ラッシュ時、白杖(はくじょう)を持った方が恐る恐る点字ブロック上をゆっくり歩いていたその数メートル後を、同じく白杖を持った方が点字ブロック上を慣れた足取りで闊歩(かっぽ)していました。

 その直後、後ろの方が前に人がいることに気づくと、持っている白杖で前の方の足元を邪魔だと言わんばかりにたたき始めました。この時は近くにいた方がすぐ止めに入り、事なきを得ました。

 この出来事について、視覚障害者とはいえ、白杖でたたくのはいかがなものかと捉えるか、あるいは自分の目となる点字ブロック上を邪魔して歩く心ない健常者がいることが、この方のとった行動を誘発したと捉えるのか。

 現在の国際社会においては、後者の解釈がスタンダードです。障害者の「障害」というのは、ここでいう目が不自由であることではなく、健常者と同等の生活を送る上で足かせとなっている現象がその方の障害であると解釈するのです。言い換えると、障害者の「障害」とは、障害者個人に内包されているものではなく、健常者、いわゆる社会が作り出している慣習・ルール、行動そして常識がそのものなのです。

 とみおか繭工房では、健常者と障害者は区別なく対等な立場です。会社の規則は社員全員に適用されますが、健常者も守れない「仕事中私語厳禁」を障害ある社員にのみ押し付けるようなルールは課しませんし、健常者が上から目線になることもありません。

 障害のある社員にも健常者はすべて丁寧語を使います。名前を呼ぶときも「さん」付け。ある時、健常者が障害のある社員に「君」付けしたようで、その社員は翌朝私に言ってきました。「僕は学校も施設も卒業して、社会人になったので『さん』と呼ばれたいです」と。

 このように、私たちの職場で働く障害のある社員は、自尊心をしっかりと持っており、私たちも彼らの自尊心を育んでいける環境をつくっていきたいと思います。

 家族や支援者からは、「最初の3カ月で辞めるのでは(実際は2年就業中)」、「施設内での小競り合いが見当たらなくなった」、「今日あった出来事を家でうれしそうに話してくれる」等、入社してからの職場以外での変化の声もいただきます。

 このような環境の変化がもたらす影響によって障害者にとっての「障害」が少なくなり、立派な社会人として働ける姿につながっているのだと思います。

 とみおか繭工房には、昨年400人の方が見学に来られましたが、「世代関係なくみんな生き生きと働いていますね」と、皆さん口をそろえておっしゃいます。次はどんな成長がみられるのか本年度も楽しみです。



とみおか繭工房マネジャー 原田大 安中市原市

 【略歴】人材サービスのパーソルグループで障害者の就労支援事業を担当。子会社が企業養蚕に参入するのに当たり、2017年4月から現職。富岡高―青山学院大卒。

2019/05/03掲載

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