『論理ガール』詩織 円の中心になる価値観
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 「先輩、恋愛ってコスパ悪くないですか?」

 そんな一文が帯を飾る小説が『論理ガール』(実務教育出版)だ。主人公は数学オタクで、あらゆる物事を論理的に考える女子高生、詩織。対照的に、ノリと愛嬌(あいきょう)だけで生きてきた翔太との交流を通じ、人生における数学の意味や価値を紹介する物語である。

 去る2018年12月、「月に開く」で同書の読書会(参加者同士で感想を語り合う会)を開催した。ゲストとして、編集担当のKさんも東京から来てくださった(月に開くの読書会は豪華なのだ)。

 さまざまな感想が述べられたなか、Kさんは著者と自身が最も読者に伝えたいこととして、こう言った。「自分が中心となり、好きなことで円をつくってほしい。それがこの本に込めたメッセージです」

 SNSで誰とでも簡単につながれる時代。やみくもに友達を増やしても、生まれる人間関係は“点”でしかない。趣味のサークルなどを主宰し、自分を中心に“円”をつくることで、共通項を持った仲間と豊かな人間関係を構築できる。表層的な友達の多さを誇る翔太を全否定し、詩織がそう話す場面が作中にあるのだ。

 このメッセージに感銘を受けたのが、参加者のBさん(30代・養豚場勤務)。円をつくるべく、月に開くを使って、読書会を主宰するようになったのだ。迎えた1回目。「誰も来なかったらどうしよう…」と不安に思っていたそうだが、結果的に6人も集まり、涙がこぼれそうになったと当時を振り返っていた。

 「毎週ヨガに行ってる、と言っても驚かれないのに、月一でカフェをやってる、と言うと驚かれることがある。消費側から供給側へ回ると、どうして特別に思われるのだろう」。ある女性が言った。彼女は会社員の傍ら、都内の店舗を間借りして、月1回カフェをしている。会社も仕事も好きだが、カフェ経営にも憧れがある。そこで月一だけ実現しているのだが、友人からは驚かれることがしばしばだという。

 参加者から主催者へ。消費者から供給者へ。円の外側から中心へ。完全にシフトするのはともかく、ちょこっと体験するくらいならたやすい。そう知ってもらい、円の中心になることが、当たり前の価値観になってほしいと僕も思っている。

 月に開くは、先に紹介した読書会のほか、絵本の読み聞かせ、スナック、カレー屋など、さまざまな方がさまざまな用途で使ってくれている。もっともっと、自己実現の場として活用してほしいと思っている。次はあなたが円の中心になってみてはどうだろう。そこからの景色は、今までと違って見えるだろうから。

 「先輩、私の言った通りでしょ?」。ツンデレの詩織も褒めてくれるかもしれない。



ジャーナリスト・ブックカフェバー「月に開く」店主 肥沼和之 東京都新宿区

 【略歴】新宿ゴールデン街でブックバー「月に吠える」を経営。萩原朔太郎に魅了され2018年春、前橋・弁天通りにブックカフェバー「月に開く」を開く。東京都出身。

2019/05/19掲載

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