師弟の関係 共に奏でる上達の熱意
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 私が風岡裕先生(故人)にバイオリンを師事した時、今でも深く心に残っているエピソードがあります。当時中学生だった私に、先生がレッスンの際に次のような質問をされました。「音楽・演奏がちゃんと成立するためにはどんな条件が必要だと思う?」

 私は単純に「最初から最後まで間違いなく弾いた完璧な演奏です」と答えました。先生は「そんな簡単なことではないよ」とおっしゃって話を続けました。「音楽には三つの要素に関わる人が必要で、一つは名曲を作る作曲家、二つ目はその曲を表現する演奏家、そして最後はその演奏を聴いてくれる聴衆、このいずれかが欠けても成り立たない」と伝えてくれたのです。

 「いくら熱演・歴史的名演をしても、無人島でお客さまがいなかったら全く意味がない」などとも言い加え、中学生の私でも納得できるように話していただいたことを記憶しています。

 中学生の私にとって音楽・演奏というものをもっと深く考えなくてはいけない、と思わせる大事なきっかけとなりました。これ以外にもバイオリンのレッスンだけではなく、人として高めていくためのいわゆる教訓や知識など多岐にわたっていろいろと教えていただきました。

 よくプロスポーツの選手やオリンピックのメダリストの話の中で、コーチや師匠、競い合ったライバル、またサポートしてくれた身内などのエピソードが紹介されています。音楽分野においてもそういった意味での「環境」はとても大事であると考えます。

 本人のやる気がもちろん肝心です。ただ、やはり適切なアドバイスの有無や環境によってその上達は違ってくると思います。まれに教えてもらうことなくできてしまう天才肌の人もいるようですが、いい環境の中で努力を重ねて結果を出した人、上達した人がほとんどだと思います。

 最近の研究では、世界的な演奏家・音楽家は大人になるまでに平均して約1万時間も練習に費やしており、普通の音楽家より数千時間も多かったという結果も出たそうです。それもただやみくもに反復練習をしているのではなく、適切な方法・方針のもとで積み重ねて。

 風岡先生も日頃から「どうすればうまく弾けるようになるかを一生懸命考えて練習しなさい」とおっしゃっていました。そして「レッスンしていて、その子に合ったやり方をあれこれ工夫して教えてあげて、上手に弾けるようになるとうれしいもんだよ」と。

 思うに何事に対しても、目標・目的に向かって、教える方と教えられる方どちらか片方だけでなく、双方がいかに真剣に向き合い取り組むかどうかで、その成果に大きな差が出てくると思います。そして両者がしっかり上達・向上への意識を持つことが重要だと考えます。



群馬交響楽団常務理事兼音楽主幹 渡会裕之 高崎市中豊岡町

 【略歴】群馬交響楽団で30年間、バイオリン奏者として活躍し、2018年4月から現職。東京都出身。中之条一中、渋川高時代に移動音楽教室を体験。国立音楽大卒。

2019/05/25掲載

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