県境なき地域学④ 両毛まるごと博物館を
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 渡良瀬川と矢場川は本県と栃木県の県境河川である。その両岸の桐生・みどり・太田・館林の4市と邑楽郡5町、栃木県足利市・佐野市の範囲は特に「両毛地域」と呼ばれている。両毛地域のように、住民の日常的な往来が活発で、県境を意識することが少ない地域のことを「県境地域」と呼ぶ。

 いま全国の県境地域では、住民と自治体が行政の枠を超えて協働し、独自の地域づくりを展開している。それが可能なのは、県境地域が歴史と文化を共有する「地域社会」を基盤にしているからだろう。

 両毛地域は中世武家文化の宝庫である。平安時代末期には平将門の乱を鎮圧した藤原秀郷の子孫が繁栄し、京・鎌倉で活躍する多くの武士を輩出。次いで源義国とその子新田義重・足利義康兄弟も進出し、義貞・尊氏へと続く道を開いた。それを物語るのが長楽寺など11カ所の遺跡で構成される新田荘遺跡(太田市・国史跡)や、足利氏の居館跡の鑁阿(ばんな)寺(足利市・国宝本堂)である。

 戦国時代になると、東関東と西関東の勢力の境目と化し、金山城(太田市・国史跡)、唐沢山城(佐野市・国史跡)をはじめ、館林・足利・小泉(大泉町)・桐生に次々と大型城郭が築かれた。足利学校(国史跡)や茂林寺(館林市)には儒学や禅宗の文化が花開いた。

 こうした歴史的資源は両毛地域の歴史的一体性の中で形成されたものであるから、両毛地域という枠組みの中で保存・活用されなければ、文化の本質的理解は得られず、地域づくりも達成されにくい。

 そこで提案するのが、両毛地域をフィールドとした「県境まるごと博物館」である。両毛地域全体を博物館の収蔵庫(保存・管理機能)、展示室(教育・普及機能)、研究室(調査研究機能)に見立て、地域全体の文化力を持続的に高めていく仕組みだ。指定文化財の保存・管理は法令にのっとって所有者と行政が行うが、教育・普及機能は住民が県境を超えて担う。目指すは博物館であって、テーマパークではない。そこで、既存の大学や博物館の調査研究機能の一部を住民に開放して活動拠点とする。

 そのためには、次の三つの課題に取り組む必要がある。

 第一に文化財行政の県レベルでの連携である。昨年の文化財保護法等の改正によって、都道府県は文化財の保存・活用のための大綱を策定し、観光行政との連携が図りやすい知事部局でも担当できることとしたが、隣県との連携も視野に入れてほしい。

 第二に住民の主体的連携である。本県と栃木県は両毛広域都市圏総合整備推進協議会を設け、草の根交流活動支援事業を通じ住民主体の地域振興活動を助成しているが、長期的活動への助成規模の拡大を検討してほしい。

 第三に地域の歴史性と文化性について、地域内外の研究者と市民が集い、「県境なき地域学」として自覚的に学びあえる場を持とう。



県立女子大群馬学センター准教授 簗瀬大輔 伊勢崎市太田町

 【略歴】専門は日本中世史。県立歴史博物館を経て2018年から現職。群馬大非常勤講師。著書に『関東平野の中世』など。伊勢崎東高―国学院大。博士(歴史学)。

2019/05/26掲載

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