がん死ゼロへ 放射線治療の普及願う
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 今や2人に1人にはがんが見つかる時代です。がんの治療法としては手術、化学療法、放射線治療があります。放射線治療は目覚ましく進歩しており、特に重粒子線治療と標的アイソトープ治療は、切らずに治すQOLの高い治療法として注目されています。

 重粒子線治療では、加速器で高速に加速した炭素イオンビームが一般的に使われています。重粒子線は体の中まで入り込み停止しますが、停止するときに大きなエネルギーを落とすので、がん部位に止まるように当てるとがん細胞が死滅し、高い治療効果が得られます。

 最近では重粒子線の効き目を患部だけに集中させる照射技術として、呼吸の動きに同期させる精密照射やがんを塗りつぶすように走査する照射技術が実用化され、副作用の軽減や治療効果の向上に結び付いています。また、重粒子線をさまざまな方向から照射できる回転ガントリーが開発され、患者は楽な姿勢で治療が受けられます。

 標的アイソトープ治療は、放射性同位体(RI)をがんに集まる薬や抗体に付け、医薬品として経口または静脈注射で投与してがん病巣へ運び、RIから放出される放射線をがん近傍から直接当てて治療する方法です。正常な細胞への影響が少なく、転移して体内に分散した小さながんでも見つけ出して治療できる特長があります。

 近年、がん死滅効果の高いα線核種に注目が集まり、アスタチン211標識薬で悪性褐色細胞腫や胃がん腹膜播種などの難治性がんに対する良好な治療効果が動物実験で確認されています。入院を必要とせず、安全で患者に優しく、治療効果の高い標的アイソトープ治療は今後ますます重要視されるものと思われます。

 重粒子線治療や標的アイソトープ治療は画期的ながん治療法ですが、幅広い普及には課題が残っています。重粒子線治療の大きな課題は装置が巨大で高額なことです。

 装置の整備コスト低減には、超伝導やレーザー加速などの先端技術の導入による加速器の小型化が必要です。さらに、炭素イオン以外の多様なイオンを組み合わせて照射するマルチイオン照射技術の開発により、治療効果が向上し、照射回数の低減、ひいては治療コストの低減につながると期待されます。

 一方、標的アイソトープ治療の懸案事項としては、RI標識薬の規制上の課題で新薬開発・普及が思うように進まないこと、維持管理の大変さ等から治療が実施可能な病床が不足していることなどが挙げられ、規制緩和や制度改善などが求められています。

 がん死ゼロ健康長寿社会の実現に向け、小型で治療効果が高い次世代重粒子線治療装置の実現や標的アイソトープ治療体制の整備によるQOLの高い治療法の広範な普及を強く望みたいと思います。



量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所所長 伊藤久義 高崎市綿貫町

 【略歴】1987年に日本原子力研究所(現量子科学技術研究開発機構)入所、高崎研究所配属。2016年から現職。工学博士。専門は物質・材料科学。茨城県出身。

2019/06/02掲載

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