新作「YAKUMO」 厳しく楽しく作り込む
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 音楽は一回性の芸術と言われている。音楽は形のないもので、鳴り響いた音はその瞬間すぐに過去のものになり、永遠に去ってしまう。それが音楽の素晴らしさであり、演奏家は一瞬の音に全てをかけ、聴く者はその一瞬を逃すまいと耳を傾ける。

 1877年、エジソンによって最初の録音機が発明され、その後技術と産業が発達するにつれて、この神聖な一回性は大きく変質した。音楽、演奏に「作品」としての新たな面が立ち現れたのである。

 録音によって、気に入った音楽を何度も聴くという行為が当たり前になった。また録音した音の修正や加工、重ね録りが技術的に可能だ。そうして一つの曲を「作り込んで」いく過程は、あたかも油絵を描くかのようだ。それに対して、修正なしの一発演奏は書道に例えられるかもしれない。

 大ざっぱに言って、ポピュラー音楽の制作過程はこの段階的な作り込みが顕著である。ジャズの場合、アドリブが大きな比重を占める音楽という点もあり、作り込みは必要最小限にとどまることが多い。しかし完成した作品が繰り返し聞かれることを前提としている点は、ポピュラー音楽と何ら変わることはない。

 ここに、作り手も、聴き手も音楽を「作品」として捉える感性が生じる。作り手はより完成度、統一感を高めようと極限まで努力するし、聴き手は繰り返し聴くに値する内容を求める。この「作品作り」は、音楽家にとって、自分の芸術に真正面から向かい合う厳しい試練の時間だ。同時に、作り手にしか味わえない充実感を得られる楽しい時間でもある。

 ところで私は現在新しいCDを制作中である。「YAKUMO」というタイトルでこの夏に発表を予定している。YAKUMOとは小泉八雲のことで、本名をラフカディオ・ハーンといい、ギリシャで生まれ、日本に没した文筆家である。「怪談」で有名な八雲は、異なる文化をまたいでアイデンティティーを築き、そして日本を愛した。

 日本人として生まれ、クラシックやジャズを学び創作活動を続ける私は、八雲の精神世界にとても興味がありシンパシーを感じる。そんな私なりの八雲にささげる頌歌(しょうか)的な作品を目指した。ジャケット画は群馬県出身でイタリア在住の版画家、池田実穂さんに依頼した。

 作品作りの苦労が報われるのは、CDを聴いて何かしら心動かされたという声を聞いた時、そしてライブにわざわざ足を運んでくれたリスナーの前で演奏するときだ。夏から秋にかけて、CD発売記念ライブが企画されている。群馬では8月17日に渋川市の喫茶ルナで公演する(予約、問い合わせ0279・23・4690)。一人でも多くの方にとって私の音楽に触れる機会となればうれしい。



ジャズピアニスト 保坂修平 東京都足立区

 【略歴】渋川市観光大使。「俺のフレンチ」などを展開する「俺の株式会社」音楽部門首席ピアニスト。「タペストリーズ」などのCDを発表。渋川高―東京芸術大卒。

2019/06/03掲載

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