『ここに泉あり』 心を揺さぶる映画の力
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 1955年2月、群馬県発の日本映画史に残る映画が公開された。

 それは、まだ敗戦の傷が癒えていなかった国民に一筋の光を差すような映画だった。

 戦後アマチュアで結成された高崎市民オーケストラ、現在の群馬交響楽団の物語を今井正監督が叙情豊かに作り上げた『ここに泉あり』だ。

 完成までの道のりは決して平たんなものではなく、小さな独立プロ製作でスタートしたものの製作費がなかなか集まらなかった。そこで、前橋市にあった1万人以上の会員を有した映画サークルを中心として県内のさまざまな団体の協力により、製作委員会を立ち上げて資金を集めることになった。

 映画の完成に大きく貢献した一人が映画サークル・製作委員会の両事務局長をしていた私の祖父、日沼富男だった。『ここに泉あり』は全国公開されて300万人を動員する大ヒットとなった。

 祖父はその後、映画の製作・配給を行う共同映画群馬事務所(現・群馬共同映画社)を設立。前橋市出身の作家、木暮正夫さんが前橋大空襲を描いた『時計は生きていた』や旧利根村出身の児童文学作家、宮川ひろさんの『春駒のうた』、旧境町の島小学校を題材にした『未来につながる子ら』など戦後の群馬県を代表する映画の製作に尽力した。

 その後、父へ引き継がれ、『エクレールお菓子放浪記』『じんじん』『あの日のオルガン』と子ども文化の向上と平和への願いを込めた作品の製作を続けている。

 そんな、祖父、父の影響もあり、私は幼き頃からその時代の人々の暮らしや思想を映し、現代の私たちへ訴え掛ける要素を含んだ映画が好きであった。「映画は時代を映す鏡である」とよく言われるが、本当にその通りだと思う。

 一つの時代に産声を上げた大衆のための映画は、その時代の文化、時代背景、大衆の思想を反映した映像による資料であり、広く後世に語り継がれるべき産物であると思っている。

 前橋シネマハウスで7、8月に上映する『ディア・ハンター』『金子文子と朴烈(パクヨル)』『岬の兄妹』『グリーンブック』『マイ・ブックショップ』『あの日のオルガン』は過去・現在のさまざまな社会問題や歪(ゆが)み、その時代を生きる人々の思いを通して私たちに多くの問題を投げ掛け、さまざまな選択肢を与えてくれる。それを多くの人に感じてほしい。映画は「面白い」や「感動した」以外にも多くの素晴らしい財産を与えてくれるのだと。

 もちろん映画ですべて感じてほしいと思っているわけでも、何かを変えられると思っているわけでもない。ただ映画という大衆芸術だからこそ感じることができ、映像という身近な物だからこそ伝えられることがあるはずである。



前橋シネマハウス支配人 日沼大樹 前橋市石倉町

 【略歴】5年ほど前に祖父が立ち上げた映画製作、配給会社「群馬共同映画社」に入社。2018年3月の劇場オープンに合わせて現職。前橋市出身。関東学院大卒。

2019/07/05掲載

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