アスリートと広報 本番での最善を求めて
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 前回100メートルの日本記録について書かせていただきました。私は2017年まで19年間破られなかった日本記録(10秒00)を作った伊東浩司選手の広報窓口の仕事をしていたことがあります。

 私は彼と同じ実業団チームに所属し、現役引退後も会社で働きました。総務部で3年働いた後、社内に企業スポーツの広報窓口を作るということで広報室へ異動となりました。

 彼が日本記録で走った1998年のバンコクアジア大会が開催される直前の異動内示でした。赴任日は選手団の帰国日と偶然重なり、成田空港へ彼を迎え、夜のニュース番組へ同行することが広報室の初仕事となりました。

 彼は陸上競技界ではすでにメジャーな存在でしたが、日本記録を樹立した際、速報掲示が9秒99と表示されたこともあって一躍時の人となりました。

 メディアの扱いも段違いに増え、私は彼のメディアの窓口として仕事をすることになったのです。広報室の私の机の上には彼への取材依頼のファクスが積み上がり、その山は日に日に高くなっていきました。

 依頼はアジア大会の結果に対するものから、長期密着取材が伴うドキュメンタリー、有名人との対談番組など多岐にわたりました。タレントのように扱われるものも多く、どのように対応すれば良いのか? 選手とメディアの関係をどのように築けば良いのか? 当時の広報室にも当然私にも、そのノウハウはありませんでした。

 こういった基準を作ることも企業スポーツの広報窓口を立ち上げる目的だったのですが、その前に選手がブレークしてしまった状態です。ぶっつけ本番のような毎日の中、選手にもメディアの方々にも迷惑をかけっぱなしでした。精いっぱいやったつもりでしたが、振り返ると選手経験のある広報としてもっとやれることがあったのではと反省しきりです。

 世間から注目されメディアに取り上げられることは、選手の励みになります。また、その競技をマイナーなものからメジャーなものへと押し上げる力もあります。半面、選手のプレッシャーやストレスにもなる場合もあることを、間近で見てきました。

 当時と違い今はマネジメントをタレント事務所などに任せている選手も多いと聞きます。また、メディア対応を教育するメディアトレーニングを実施する競技団体も多いようです。東京オリンピックを間近に控え、多くの競技で若い選手が台頭してきました。

 見る側として、1年後彼らの最高のパフォーマンスを楽しむために、いろいろな情報を知りたい欲求を抑え、本番を楽しみに待ちたいと思います。



川村学園女子大陸上部監督 岩崎利彦 高崎市九蔵町

 【略歴】陸上男子110メートル障害で日本人初の13秒台を記録。バルセロナ五輪出場。2018年春、川村学園女子大陸上部を本格始動させた。桐生南高―順天堂大―富士通。

2019/8/30掲載

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