医師を目指す君へ⑥ 生涯かけて突き進む
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 臨床医としてのこれまでの四半世紀は、決して同じ日は一日もなかった、というのが率直な感想です。また何よりも私自身が、医師として充実していると実感できるのは、個々人の患者さんとの距離感の近さから来ているのではと思います。

 患者と医師が向き合うとき、建前とか、自分自身を取り繕うようなことは無意味です。ほとんど全ての場面で、事実を正確に捉え、本音で話をしながら信頼関係を築いていきます。大きな共通の目標は、より幸せな人生を一緒に探すことです。

 多くの医師はプロフェッショナルとして、常に精神的には完全に自由で開放されています。もし、通常の日常生活ではごく一部の親しい人たちとしか築かないような本音をぶつけ合う人間関係が、自分が接する多くの人と築くことに大きな意味があると感じ、極めて自由な精神の世界が心地よいと感じるのであれば、医師を目指す一つの重要な動機付けになると思います。

 医師の進む道は多様です。じっくり患者さんと向き合うことが好きならば内科医は魅力的です。空間認知能に優れ、即決即断が得意で繊細な手の感覚を持っていれば、優れた外科系の医師として充実した毎日を送ることができます。深層心理を見抜く鋭い感性を持っていれば精神科医は非常に魅力的だと思います。

 研究が心底好きであれば、基礎研究の道に進むべきです。公衆衛生の改革に取り組みたいとの思いから、医系技監として国や地方自治体の保健行政で活躍する医師もいます。全力で仕事に向きあえば、必ず生涯をかける価値のある、自分の心地よい居場所を見つけることができます。

 日本の皆保険、医療システムは世界で最高と感じています。地域格差はまだあるものの、皆がほぼ同等な高度の医療を受けられます。特に米国では保険・医療に支払える財力により、受けられる医療に雲泥の差があります。

 医師として客観的に世界の医療事情を見た場合、日本の医療は、公正でまじめな多くの医師の努力により支えられていることは間違いありません。例えば、医師の中でも激務といわれる外科医は、昼夜を問わない肉体的・精神的負担により、平均寿命が60歳を切ったことは、あまり知られていないかもしれません。

 私が知る限り、ほとんどの医師は、患者さんには、いかなる時も最大限の優しい気持ちで接する(時に厳しいことは言いますが…)ことをモットーにしていますが、その背景には、まさに命を削る覚悟があることも、医師を目指す若い人たちには知ってほしいと思います。

 2018年4月から黒沢病院院長として新たな道に進み、素晴らしい日本の医療を、できる限りのことをして一翼を担っていきたいとの思いで日々まい進しております。



黒沢病院院長 伊藤一人 玉村町斎田

 【略歴】群馬大大学院医学系研究科泌尿器科学准教授を経て現職。前立腺研究財団・前立腺がん撲滅推進委員。専門は泌尿器腫瘍全般、がん予防医学。群馬大医学部卒。
 
2019/09/03掲載

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