さようならだけど… 一歩前へ、前橋と共に
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 「さようなら」という言葉を、二つの意味でお伝えさせていただきたい。一つは本連載が最終回ということ。もう一つは、ブックカフェバー「月に開く」のオーナーを退任することだ。

 2012年、僕は新宿に、萩原朔太郎の詩集を店名に冠したブックバーを開いた。それがきっかけで前橋と縁が生まれ、東京と行き来するように。そして、「前橋にも本や朔太郎をコンセプトにしたお店があったら」と、月に開くをオープンさせた。

 だが実は、開店準備をしている最中から、いずれは地元の方にお店を譲りたいと考えていた。僕の役割は、お店のプロデュースと、いつオーナーが変わってもスムーズに運営の引き継ぎができるよう、仕組み化するところまでだと割り切っていた。

 そして最近、若い女性が後継者に名乗りを挙げてくださった。詩作や朗読活動をしている方で、「出会いや交流の場所」「文化の発信拠点」というお店のコンセプトにも賛同してくれた。何とこのために、みどり市から前橋に移住するという。年内には引き継ぎを終える予定だ。

 なぜ僕はオーナーを退くのか。僕は東京で生まれ、今も東京を生活や仕事の拠点にしている。その日々に満足もしており、正直、前橋への移住は考えていない。開店当初は、前橋に部屋を借りて2拠点生活を送ったが、僕がいなくてもお店が回るようになった今、前橋を訪れるのは月1回程度。そんな僕より、物理的にも精神的にも、本気で店舗経営に向き合ってくれる方にお任せした方が、月に開くはより愛されるお店になる。そして経営的にもうまくいく、と確信しているからだ。

 だがこの考えは、一部の方からおしかりを受けた。「中途半端な気持ちでお店を始めたの?」という言葉もいただいた。

 ただ一つ断っておくと、オーナーを退いても、前橋との関わりをなくすつもりはない。自分にふさわしい立場から、できることをピンポイントで定め、全力で取り組んでいきたい、と考えている。具体的にはお店でのイベント企画など。経営全般を見ていた社長が、企画部の部長になり、その領域に専念するようなイメージだ。

 というわけで、冒頭で「さようなら」と書いたが、本当は全然お別れではない。むしろ、「今後もよろしくお願いします」と、この場を借りて皆さまにお伝えしたい。

 最後に勝手を承知でお願いしたいのは、若くて志がある新オーナーをぜひ応援してあげてほしいということ。お客さんとして来店いただきたいのはもちろんだが、イベントで使ったり、本を寄贈してくださったりするのも大歓迎。月に開くが地域の人々に愛され、10年、50年、100年と続くお店になるよう、何卒(なにとぞ)よろしくお願いいたします。



ジャーナリスト・ブックカフェバー「月に開く」店主 肥沼和之 東京都新宿区

 【略歴】新宿ゴールデン街でブックバー「月に吠える」を経営。萩原朔太郎に魅了され2018年春、前橋・弁天通りにブックカフェバー「月に開く」を開く。東京都出身。

2019/10/12掲載

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