再生医療 英知結集し研究重ねる
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 私たちの体は37兆個ともいわれる膨大な数の細胞で構成されています。細胞にはいろいろな種類があり、形や性質も多種多様です。同じような形や性質の細胞が集まったものを組織(筋組織、神経組織など)、いろいろな組織が組み合わさって機能を持つものを器官(心臓、肺、眼、耳など)といい、組織や器官が連携して働くことで、私たちの体は正常に機能し、体調が維持されています。言い換えると、私たちのいのちは人体を構成する多彩な細胞の働きで成り立っています。

 このような細胞レベルで病気やけがの診断や治療を行う手法が近年注目されています。その一つが再生医療です。再生医療は、病気やけがで障害を受けた組織や器官の働きを再生させるため、細胞や組織を体外で培養・加工して体に移植する医療手法で、これまで有効な治療法がなかった疾患に対して新しい医療をもたらす可能性があります。

 わが国では2014年9月に、世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が実施されるなど、着実に成果が上がっていますが、半面まだ課題も多いのが実情です。

 最近、私たちの研究所はこの課題の一端を解決しうる研究成果を発表しました。細胞を生体外で人工的に維持・増殖させる“細胞培養”に関する技術で、コラーゲンから得られるゼラチンを水溶液にして放射線を当てると、薬剤を一切使わず、生体内環境を模擬した細胞培養用ゲルが作製できるというものです。

 ゲルの硬さはゼラチン水溶液の濃度や放射線の照射量で制御でき、具体的には培養したい組織に合わせて蜂蜜、プリン、羊羹(ようかん)、チーズのような硬さに調整できます。ゲル作製時に滅菌も同時に行えるので、長期保管も可能です。

 このゲルで細胞を培養すると、既存のプラスチックやガラスでできた培養ディッシュ上では平たんな敷石状形態であったものが、生体内と同様、細胞が集まって塊になるような挙動を示すことが確認されました。

 さらに、ゼラチン培養ゲルの表面に千分の1ミリ程度の微細な凹凸加工を施すと、筋肉の細胞の向きが凹凸にそろって成長し、収縮運動することも明らかにされています。細胞の伸展方向の制御は、従来の培養ディッシュ上ではできなかった画期的な成果で、本技術を発展させることにより将来、心臓や筋肉モデルなどが形成でき、心疾患や筋ジストロフィーなどの治療に役立つものと期待されます。

 再生医療の実現には、臨床・基礎医学、分子細胞生物学、細胞・組織工学、材料工学等の英知の結集が不可欠です。細胞培養以外にも多くの課題がありますが、広範な学術領域の連携と研究開発の積み重ねにより多様な組織や器官を修復できる再生医療の早期実現に結び付けていってほしいと思います。



量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所所長 伊藤久義 高崎市綿貫町

 【略歴】1987年に日本原子力研究所(現量子科学技術研究開発機構)入所、高崎研究所配属。2016年から現職。工学博士。専門は物質・材料科学。茨城県出身。

2019/11/05掲載

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