“沈黙をきく” 自ら成長する力信じて
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 高校生の就職をスムーズにするためのキャリア支援事業を担当していた時期のことです。各高校に行って就職のための履歴書作成講座や面接対策講座などしていました。

 「話をしないS君がいて困っている。彼は就職希望だが、誰とも話さないし、就職活動を始めようとしない。助けてほしい」。ある公立高校の進路指導の先生からの要望でした。早速、その高校でS君と会うこととなりました。

 先生に連れられて来室したS君はうつむき加減で迷惑そうな表情を浮かべていました。先生には退出していただき、2人だけとなり机のコーナーで90度の位置関係になって席に着きました。私が最初に①「来てくれてありがとう」②「先生に内緒にするから」(守秘義務)③「時間は50分。言いたいことから話してください」―と話しました。

 そして、両手を膝に置いてじっと話を待ちます。しかし、S君は話そうとしません。15分たち「言いたいことがあったら言ってね」、30分たち再び「言いたいことがあったら言ってね」と発言しますが一向に話そうとしません。

 その間、S君は手で目をこすったり、頭をかいたり、ため息をついたりしていて一生懸命に考えている様子でした。相談が嫌だったら帰ってもいいのに、S君は私の方に身体を向けていました。

 結局50分たってしまったので「今日は時間なので終わります。でもS君は自分のことを考えてくれてありがとう。来月もこのような相談の場があるけど来てくれる?」と確認すると、しっかりとうなずいて退室していきました。

 翌月訪問した際、相談室に来たS君はいきなり「昨日O製作所に面接試験に行ってきました」と話し始めました。きちんと自分から行動してくれていました。3回目の面接の時、S君は「O製作所の試験は落ちましたが、親と相談して高崎の産業技術専門校に行って機械加工の勉強をすることに決めました」と話してくれました。

 後で先生に聞くとS君が「ゲームクリエーターになりたい」と発言した時に先生方は「大変だぞ。介護だったら就職しやすいから介護職にしてみたら」と提案したそうです。その時からS君は話さなくなったようです。言いたいことを言って否定されたS君は沈黙せざるを得なかったのでしょう。後で先生から「大小原さん、S君に何飲ませたんですか?」と質問されましたが、私は「何もしないカウンセラーです」と答えました。

 “沈黙をきく”という言葉があります。沈黙の50分の中でもS君と私の信頼関係ができたものと思います。そのことからS君は自分から行動を始めたのだと感じます。

 「相手の成長力を信頼し、質問やアドバイスではなく、一緒に考えよう」。こうした姿勢が大切なことだと学ばせていただきました。



NPO法人日本ゲートキーパー協会理事長 大小原利信 富岡市上小林

 【略歴】ITメーカーを2009年に早期退職し14年から現職。前橋、伊勢崎両市の自殺対策推進協議会委員や、安中総合高の非常勤講師を務める。高崎工業高卒。

2020/02/07掲載

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