町変えた色彩の力 未来示し覚悟固め実行
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 隣町がうらやましくてならない―。田舎町に住む1人の少年の嘆きがきっかけで「町が再生したファンタスティックな出来事」を紹介したい。なぜ自分たちの住む町に人が来ないのか、なぜみんな貧乏なのか教えてと、校長先生に懇願したことから始まった話だ。

 生徒の素朴な疑問に対し校長先生は真剣に悩み、一つの結論に至った。隣町は小さな観光地で、船を降りた観光客は、貧乏くさい町を尻目に観光地へと散って行く。一つ道路を隔てれば、自分たちの住む町があるのになぜか近くに来ても戻ってしまう。
 真剣なまなざしの少年に校長先生は、隣町より汚いからだと諭した。「汚い町に行こうと思うかい」。きれいで安心して暮らせる町になったらきっとみんな来てくれるはず、君の家も豊かになるのだよと校長先生は慰めた。

 校長先生は「行動力」もすごかった。早速、自らペンキを買ってきて、その子の家から塗り替え始めた。1人で黙々とである。やがて「近所の人を巻き込んで自ら考えたことを証明」することになるのだが、賛同する人たちに手伝ってもらい、ひたすら塗り続けた。

 ペンキ費用が底をつき始めた頃、ひしめき合う建築群に興味を抱いた一部の観光客が少しずつ来るようになってきた。やがてお店の売り上げも少しずつ増えるようになると、そのうわさは町中に広がった。住民目線も変わった。おのおのが売り場など、至る所を塗った。活動のうわさは全国に伝わり「行政を動かす」までになったという話だ。

 陰気くさい町をのぞくだけで、帰ってしまうほどの町だったが、興味を抱かせる町に変身させた。「色彩の力」である。お客を呼び戻すほどの力は「波紋のように広がった」のである。口先だけでは人は動かない。何が必要かを明確化し、実行する大切さを自腹を切って示したのである。

 安易に貧困の町だから起こせたと考えるべきではなく、「貧しさに疲弊した住民への導き方」、「覚悟」だ。東南アジアで繰り広げられた町おこしの美談である。日本でも田舎町を再生したニュースをたまに耳にする。そこで共通する言葉は地元愛だ。熱く語り合い絞り出した結果だ。

 ここで言う愛は「統一された一体感」だ。まとまりがなければ成就の道は険しい。「資金」「立案」「計画」「実行」、建設工事のようだが、盆栽作りのごとく、世界観をコンパクトに捉え試みることで、見えない先が見える。特徴ある規模に見合った一体感だ。しかも全てが計算され作られていなければいけない。

 町おこしを経験したことのない自分だが、少年のように素直な心と、校長のような気概のある男になりたいものだ。




日本塗装工業会県支部顧問 木暮実 高崎市井野町

 【略歴】1975年に高崎市で木暮塗装を創業(現在は会長)。2008年、厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」に選定。武蔵野美術大造形学部中退。

2020/05/18掲載

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