あるもの探しへ 地域の解像度を上げる
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 ぼくの趣味は魚釣りです。小学校のころは授業が終わると、高崎市内の近所にあった烏川の三日月湖(「たまり」という通称でした)に出かけては、オイカワやフナを釣って楽しんでいました。ときに太いナマズがかかってびっくりしたのを覚えています。そして大人になったいまは、日本各地のタナゴの仲間に出合う旅を続けています。

 タナゴは数センチ程度の小さな淡水魚で、豊かな田園地帯を流れる二枚貝の多い小川や水路に生息しています。水草の脇をチョロチョロと泳ぐ姿は愛らしさ満点です。タナゴ釣りの際に、ぼくはアイスバーの「ガリガリ君」サイズのポケット水槽をいつも携えていきます。陸上から水面越しに眺めるタナゴたちは、ややもすると背中の黒っぽい「ただの雑魚」と無関心にまとめられがちです。でも、1匹釣り上げて、それをポケット水槽の中に入れて真横からまじまじと見つめると、風景が変わります。

 赤やオレンジのヒレに、メタリックグリーンとパープルの頬、そしてプラチナシルバーのボディー。すべてがまぶしい輝きを放ちます。いうなれば、ゴージャスです。

 この現象をぼくは、「地域の解像度を上げる」と呼んでいます。タナゴは地域のメタファー(隠喩)です。広く大きく見ていた物事を、思いきって「ガリガリ君」サイズに切り取ってみる。そうすると、粒立ちが現れ、情報が深くなります。「上からぼんやりと認識していた、殺風景な水路のあまり興味を引かない小魚(タナゴ)を別の角度から近距離で見つめ直すと、実はなんともときめく美しさを備えていた」というわけです。地域の課題と気づきの関係に通じていますよね。

 ぼくはタナゴで地域を見ていますが、コーヒーが好きな人はコーヒーから、ユーモアが好きな人はユーモアから地域をミクロに見ていってもこの解像度は上がるでしょう。例えば、北海道釧路市をおもしろがる団体『クスろ』は、おふざけやダジャレなどを用いたクスッと笑える元気な手法で、とてもうまく釧路という地域の解像度をこまやかに上げて、発信しています(釧路の新土産としてクラウドファンディングで製作されたタンチョウや“フレンチドッグ”などの「おふざけキーホルダー」がかわいいです)。

 いろいろな地域にうかがうと、地元の人が「このまちには何もないよ」と言うことがあります。これは謙遜かもしれないし、あるいは心からそう思っているのかもしれません。いずれにしても、おのおのが個性的に視座を変えて、地域の解像度を上げることを意識すれば、この言葉は転じて「いやいや、ここにはおもしろいものばかりだよ!」になります。ないものねだりから、あるもの探しへ。「ない」を「ある」に変える一種の地域づくりの技術です。



ソトコト編集長 指出一正 東京都世田谷区

 【略歴】雑誌「Rod and Reel」編集長を経て現職。「関係人口」を提唱し、内閣官房や環境省の委員も務める。高崎市出身。高崎高―上智大卒。

2020/07/09掲載

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