サボテン農家さん 人を救い、動かす「心」
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 今年の梅雨は長く、九州や長野を襲った豪雨は多くの方々に甚大な被害を生みました。特に熊本と鹿児島では被災が大きく、農業に携わる方も多く罹災(りさい)されました。農林水産省の報告によれば7月23日現在、農産物の被害額は24億7千万円、被害面積は6989ヘクタールに及びました。

 農業における災害の影響は、露地栽培の土や果実が流されること、ハウスの浸水、冠水、倒壊によって作物が収穫不可能になることが考えられます。手塩にかけて育てた野菜や花は一瞬にして消えてしまいました。

 今から6年前の2014年2月14日、群馬県に記録的な大雪が降ったことは記憶に新しい話です。当時、私が通っていた農家さんのハウスはみな被害を受けました。前橋にあるサボテン農家さんもその一つで、23棟のハウスのうちたった2棟を残し倒壊しました。夜通し行った雪かきでは全く歯が立たず、一晩で無残にもハウスがつぶれてしまったのです。

 翌朝、真っ白に覆われた別世界を目の前に、社長さんは取引先一人一人に電話をかけました。「もうサボテンを納めることができません。今までお世話になりました」と。そんな社長の姿を、奥さんは陰で見ていたと後に教えてくれました。現実を受け入れた社長の言葉にとても心が痛んだことでしょう。

 私は休みの日に、ハウスの雪かきを手伝いました。いつもは明るく優しい農家さんの顔を見るのが楽しみでしたが、この時ばかりはハウスに行くだけでも胸が張り裂けそうな思いになりました。

 大雪で交通の便も悪い中、九州から1人の園芸店のバイヤーが農家さんの所へ飛んできました。そしてこう言ったのです。「商品になるものは何でもうちで売ります」。農家さんはその言葉を聞いて、再起を決意しました。バイヤーと一緒にビニールを破り、パイプハウスの下で生きているサボテンを掘り起こしました。

 一歩ずつ前に進む農家さんの周りには、ハウスの解体から組み立てを手伝う多くのボランティアが集まり、3年がかりで元に戻りました。

 6年たった現在、農家さんは大雪の頃を振り返ります。「周りの応援がなければサボテン農家を続けていなかった。だけど一方で私たちにはこれしかできないとも思った。つらかった過去は今思い出すと輝いている。人は諦めなければ絶対にできる」

 先日の九州豪雨や熊本地震の際は、農家さんが園芸店に電話をしたそうです。「今度は自分が応援したい」。人の前には度々困難が現れます。そんな時、思いやり助け合う心が人を救い、自分の中の諦めない気持ちが「思い」を実現できるのだと、農家さんの背中を見て感じました。



農業カメラマン 網野文絵 高崎市

【略歴】大学で写真を始め、カネコ種苗(前橋市)に就職。広報部門で現場へ撮影に出向き、個人でも農業カメラマンとして県内外で個展や写真教室を開催。山梨県出身。

2020/8/2掲載

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