地域防災に先人の知恵 地名が刻む災害の記憶
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 都丸十九一先生は私の永遠の恩師だ。1991年の夏、勤務校の図書館の書棚から何の気なしに取り出し、ページをめくった『地名のふしぎ』(漫画ふるさと学習シリーズ)。子どもたちに身近な地名の由来を分かりやすく教える、その漫画の主人公こそ都丸先生だった。次に私が手に取ったのは、地名を主に民俗学的な視点から学問として体系化した不朽の名著『地名のはなし』。都丸先生の著書を通して、地名の奥深さにたちまち魅了された。

 その直後、群馬地名研究会の行事が偶然にも下宿に近い中之条町で開催された。早速、同僚を介して同研究会に加入させていただき、会長の都丸先生ご本人に初めてお会いした。午後も「白久保のお茶講」体験でご一緒させてもらった。

 以来、地名学関連の書籍を何冊も読みあさり、仕事の合間に旧吾妻町や北群馬・渋川地域でフィールドワークにいそしみ、地名の成り立ちを自分の目で確かめた。同研究会でその成果を発表させていただき、都丸先生からご指導を受けたこともあった。

 さて、昨年8月の九州北部豪雨から1年足らずで、九州は熊本県南部を中心にまたしても豪雨災害に見舞われた。氾濫によって大勢の人命を奪った球磨川に関して、7月12日付本紙「ひろば」で阿佐美良雄さんは地名「くま」の由来に言及し、今回の被災地における潜在的な災害リスクの所在を明らかにした。ご指摘の通り、河道が曲がり込んでいる分、その河岸(蛇行の外側)は流水の衝撃で削り崩されやすくなるのは自明だ。

 地名には災害の記憶をより生々しく刻むものもある。中島啓治先生は著書『ぐんまの自然と災害』で個々の災害を科学的に詳述する一方で、災害の記憶を刻む地名にも焦点を当てた。「お化け丁場」「大崩(おおぐい)」など過去の被災を反映した「風変わりな地名」の数々を例示し、身近な地名に学ぶことの大切さを啓発した。

 私の村を流れる蛇ケ見(じゃがみ)川も、実は土石流を意味する「じゃ(砂)」が河谷をは(喰)むように流下して生じた崩壊地を指す「じゃばみ(蛇喰)」がなまったものと思われる。「じゃぐい」「じゃぬけ」はその類例だ。榛名砂防の発祥地であり、デ・レイケ堰堤(えんてい)の施工数が最も多い「栗の木沢」(榛東村)、そして前々回ふれた「野栗」(上野村)も単なる植物地名ではなく、崩壊地を示す「くり(刳)」に由来するものかもしれない。

 都丸先生は『地名のはなし』の冒頭で、地名には「それぞれ特有の発生の理由があり、歴史があり、地域性があり、ひそかにその存在を主張している」と述べている。災害伝承碑と同様、地名に残すことで災害リスクの所在を後世に伝えようとした先人たちに応えるためにも、その教えを地域防災にもっと生かすべきだ。



榛名山麓のデ・レイケ堰堤を見守る会代表 大林和彦 榛東村新井

 【略歴】高校教諭で現在は前橋清陵に勤務。2016年に見守る会を立ち上げ。高校通信制「地理B学習書」(NHK出版)を執筆。群馬大教育学部(地理学専攻)卒。

2020/08/20掲載

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