塗装で気分転換 リノベーションの勧め
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 情報過多の現代において、自分と無関係なことには現代人はあまり興味を持たない。携帯以外の楽しみ方を知ろうとは感じられない。指一本で検索すれば、じかに知りたいことが分かる便利な時代だ。片寄った物知りになってしまわないか心配である。

 興味を持てない話かもしれないが、「デコラティブペイント」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。ペイントを意図的にむらを付けて塗り、テクスチャーを楽しむ技法だ。そんな仕事をちょこっと紹介したい。

 小粋な商業施設の前を何げなく通りすがり、気が付けば店内に。「あれ…」、そんな経験をしたことがあると思う。お店の抵抗感を感じさせない「間合と空気間」、それを演出しているのが、芸術性の高い装飾塗装だ。

 刷毛(はけ)と塗料だけで独自な世界観を表現できる塗り方だ。従来の塗装は目立たないのが普通だった。しかし装飾塗装は違う。脇役でありながら、主役の商品を仕立て以上に見させる力がある。「塗装マジック」といわれるゆえんだ。色の濃淡、削りやボカシ、型に見合った雰囲気を醸し出せる技法は美術的だ。

 安価で短期にリメークできる塗装は、特に人気が高い。中でも「エイジング」といわれる技法がはやっている。素人でも自由に塗ることが可能なペイントは、家族で楽しめる塗装でもある。

 デコラティブペイントは、ヨーロッパの「修道者から生まれた400年以上も歴史のある塗装」でもあるのだ。終身を神に仕えた身である反動が塗装に込められたいう逸話も聞かれる。石やれんがの上に石こうを塗った質素な壁を気分転換から塗り替えたのだが、絵や模様までも描いたのだ。さぞかし痛快で楽しかったに違いない。

 キリスト教信者から世界中に広がった。退屈を紛らせ、一石二鳥である。さらにそれ以上の役割を兼ねていた。夢中で作業へ没頭した無の世界は、邪念や欲望さえ無縁の時だ。楽しくないはずはないだろう。「塗りは物を保護するだけでなく」「身も心も浄化する力を持っている」

 化粧品や冊子に見るコマーシャルの影響もあって「エイジング」という横文字の響きは聞こえがいい。エイジングによる雰囲気づくりは店舗に限らず、個人住宅などにも採用されている。昔からあった技法だが、若者の穴の開いたジーパンが格好良く見える時代だからこそ、朽ちた物にも美が存在することを教えてくれた社会に感謝したい。

 一般塗装がストレートペイントなら、ハードロックな塗装も楽しめるのが、デコラティブの長所でもある。リメークは楽しくなければいけない。コロナ禍による予測不能な時代、「リノベーション」で気分転換を図ってみたらいかがか。汗を流すのも気持ち良いものである。



日本塗装工業会県支部顧問 木暮実 高崎市井野町

 【略歴】1975年に高崎市で木暮塗装を創業(現在は会長)。2008年、厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」に選定。武蔵野美術大造形学部中退。

2020/09/12掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事