標本を収集する 学術資料としての価値
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 昆虫の標本を見たことはありますか。子どもの頃に標本を作ったことがある方もいるかもしれません。昆虫の標本といえば、チョウやカブトムシなど大きくてきれjいな昆虫を装飾品のように飾って眺めるものと思われるかもしれません。実際、そのようなコレクションとして集める方もいます。

 生きている昆虫を殺してどうして標本にして集める必要があるのか、と言われる方もいます。標本には展示などの観賞用としてではなく、もっと重要な役割があります。それは学術資料としての役割です。

 本来、標本と呼べるモノには、採集地や採集日、採集者などのデータが書かれたラベルが付いています。標本にはデータラベルが必須であり、データラベルのないものは標本とは言えず、資料的な価値のない、単なるモノとなります。

 現在、開発や温暖化などによる環境変化により、地域の動植物相が刻々と変わっています。かつては見られなかった南方系の昆虫や外来種が県内にも定着したり、反対にどこにでも見られて普通種と呼ばれたような生物が減少し、絶滅危惧種になっている場合もあります。

 レッドデータブックを作成する場合には、正確なデータラベルの付いた標本が存在すれば、絶滅危惧種が生息していたことを示す科学的な物的証拠となります。また、標本とデータを調べることにより、分布を広げている種の動向や外来種などの侵入経路、時期などを推定することも可能であり、過去から現在への環境の変化を知るための情報源として利用できます。

 県立ぐんま昆虫の森の展示室には国内外の昆虫標本を展示していますが、それは保管している標本のごく一部です。バックヤードにある収蔵庫には数万点の学術資料としての標本を保管しています。その多くは体長が数ミリ程度でとても小さく、地味な昆虫たちです。目立つ昆虫ではないので展示などには不向きですが、データラベルが付けられ学術資料としては十分な価値があります。

 昆虫の森は県内唯一の公立の昆虫専門施設として、県内に生息するさまざまな昆虫の標本を採集や寄贈などにより収集しています。また、県内の昆虫に関する文献などの収集にも努めています。集められた標本や文献を基に調査研究を行い、新たな知見を見いだすことが可能です。

 小さな昆虫を地道に調べていくことで地域の自然環境を科学的に解明し、群馬県の豊かな自然環境の保全に役立てるとともに、研究によって得られた情報を展示や教育普及活動に生かして、多くの方が昆虫をはじめとする動植物やそれらの生息する身の回りの自然に気付き、考えるきっかけになればと考えています。



県立ぐんま昆虫の森昆虫専門員 金杉隆雄 前橋市上新田町

 【略歴】2005年の開園時から現職。県尾瀬保護専門委員、前橋市自然環境保全推進委員。専門は昆虫分類学と衛生昆虫学。藤岡市出身。帯広畜産大大学院修了。

2020/09/21掲載

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