「感覚遮断」実験 あなたのそばにいます
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 6月26日の「視点」で「不登校、引きこもりやうつ状態は自分の命を守っている状態」と説明させていただきました。今回は一歩進め、引きこもって命を守っている状態だけれど、一定の条件を満たす必要があることをお伝えしたいと思います。それは「人との関わりをなくしてしまうと病状が出てくる可能性がある」というものです。

 1951年にドナルド・ヘッブという心理学者が学生の協力のもとに医療態勢を構築した上で行った「感覚遮断」という実験があります。14のワンルームのような個室に学生を1人ずつ入れ、誰とも話せない、食事はランチボックスでとるといった独房のような状態におき、その中で生活をするとどのような変化があるかを調べる実験です。

 皆さんは1人きりでいるとどのようになるでしょうか。最初はリラックスしていても誰とも話をしない状況に置かれると、気持ちが落ちこんでしまう方も少なくないように思います。この実験では80~90時間が経過すると“幻聴・幻覚・妄想”といった症状が表れました。1人で誰とも関わらない孤立している状態になると精神面の病状が出てくるようになったのです。

 自宅2階の部屋に閉じこもっている子どもに親が心配だからと部屋のドアの前まで食事を持って行ったとすると、この感覚遮断の実験と同じようになる可能性があります。

 72年にグアム島で発見された元日本兵、横井庄一さんはジャングルで戦後28年間、地面に掘った穴に身を隠して野ネズミや木の実などを食べて暮らしました。自分自身で食べる努力をしていたということです。

 このことから考えると、2階の部屋で閉じこもっている子どもに食事を運んで与えていると、人間が本来持っている「食べたいという欲求」(生理的欲求)を満たすことができなくなり、病状が出てくると言えないでしょうか。一方の横井さんは生きるため、「食べたい」という欲求があったから病状が出なかったと推察できます。

 親として「食べたかったら自分で食べろ」との気持ちで接することで、子どもは自分から仕方なく部屋から出てくるようになりますし、部屋を出るきっかけになるように思います。さらに、子どもの名前を呼んで「○○ちゃん、食べたんだね。ありがとう」とドア越しでも話しかけることが大切でしょう。

 現代社会では「何でこんな事件が起きたんだろう」と思いもよらない事件がありますが、「感覚遮断」の状態になっている方が少なくないと感じます。孤立をなくし、落ち込んでいる方がほっとできる環境づくりを私たち一人一人が意識しましょう。そして、相手の成長を信じて見守ったり、安心の「味方メッセージ」を伝えることも求められています。



NPO法人日本ゲートキーパー協会理事長 大小原利信 富岡市上小林

 【略歴】ITメーカーを2009年に早期退職し14年から現職。前橋、伊勢崎両市の自殺対策推進協議会委員を務める。20年3月まで安中総合高非常勤講師。高崎工業高卒。

2020/10/04掲載

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