中長期戦略・上 情理を尽くし天命待つ
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 世の中には、さまざまなビジョン、経営計画、ロードマップ、基本構想、総合計画などであふれています。

 さまざまな企業や地方公共団体など(場合によっては同好会も含めて)が、義務が特段ないにもかかわらず、策定や意思決定などに多大な労力を費やしています。例えば、地方自治体は2011年8月の地方分権改革の一環で、最上位戦略の基本構想の策定義務が免除されたにもかかわらず、ほぼそのすべてで同等物の策定を継続しています。

 企業においても、生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート」によれば、コーポレート・ガバナンスに関する今後の強化事項の最も多い回答は一貫して「経営計画・経営戦略」となっています。

 他方で、その実態は玉石混交で、本来の機能・役割を果たせていないものが多くあります。現実離れした希望的観測やポエムのようなもの、一定の結論・価値観から無理やりバックキャストしたもの、予算確保のためだけのものも散見されます。

 これらは極端な例ですが、実態としては現在の延長線上の単年度計画を束ねて積み上げたものであり、その実現のための人材や予算などの資源配分は現在の数字・貢献に依存しているケースが多くあります。

 これらをまとめて仮に「中長期戦略」と呼称して、今回を含め、上中下の3回に分けて議論できればと思います。具体的には上に続き、中で改めて中長期戦略の必要性と意義、下で海外プラクティスなども踏まえた適切な中長期戦略の策定方法について、それぞれ議論したいと思います。

 議論を展開する前に確認しておきたいのは、さまざまな方の経験則的にも、中長期戦略が必ずしも組織の相応のパフォーマンスになければならないものではないということです。

 私は中学時代に国語の恩師に教えていただいて以来、宮沢賢治の「生徒諸君に寄せる」が好きです。さまざまな企業や地方自治体などが、新しい価値を提供しようと果敢に挑戦する中で新たな深みや文脈などが生まれ、少しずつかもしれませんが、社会が変わっています。

 英国経済学者ケインズは『雇用・利子および貨幣の一般理論』において、アニマル・スピリットの重要性を説いています。外部環境や予想収益率などの細かい打算や小難しい話などなしに、「俺は今これをやってやるぞ!」という気持ちで成功しているケースは多数あります。

 万事現場の力の強靭(きょうじん)さがあってこそとなります。現場が迅速かつ効果的に、その時々で対応・改善する力は依然重要な価値を持っています。これらは、オペレーショナル・エクセレンスなどと呼ばれ、日本人の競争優位性の源泉などと呼ばれてきました。



野村総合研究所コンサルタント 永井宏典 東京都中央区

 【略歴】政府系金融機関に勤務後、2017年から現職。企業戦略や政府の政策立案を支援。米国証券アナリスト、米国公認会計士。高崎市出身。高崎高―慶応大卒。

2020/11/22掲載

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