大学の人材育成 人間力高く地域に貢献
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 以前の大学は、学生が好きな科目を選択して単位を取り、必要な単位数を獲得すれば卒業、というシステムでした。育成理念はあったものの、果たして私自身、理念に沿った教育を受けたのか、正直分かりません。また、卒業生の実力に対する保証もありませんでした。

 これは群馬大だけではなく、日本中の多くの大学が同様だったと考えられます。その結果、社会では「大学で学んだ知識はあまり役立たない」という考え方が広まり、就職の際は、出身大学、先輩―後輩のつながり、部活動などが採用に影響することが多々ありました。

 大学では学問の自由が保障され、好きなことを学べる、というのは大変重要です。しかし、それだけで社会のニーズに合致した学生を送り出せるのでしょうか。そこで、群馬大は社会からのニーズも踏まえ「どのような学生を送り出すか」を具体的に明示しました。

 その方針に基づき、カリキュラムを作り、学生選抜方針を定めて入学試験を行うようにしました。そして、国際的視野を持ちながら地域に貢献できる学生を送り出せるよう、努力をしています。

 私は、所属する医学部で、カリキュラム編成を担当しています。医学部はさらに細かく育成方針を定めました。各科目が方針のどの部分の教育に該当するのか、を明示するようにしています。また、解剖学、生理学、内科学などの専門科目に加え、「人間力向上」のための科目も用意しています。学生たちは実際に患者さんの声を聞いたり、社会のさまざまな問題を想定したケーススタディーをしたり、老人保健施設などで介護実習したりしています。

 「勉強ができれば医者になれる」という時代は終わりです。医師として必要な知識を習得するのはもちろんで、膨大な量の学習は必須ですが、患者さんと向き合い、声を聞き、話をして、一緒に病気と闘っていける力を育成することが重要だと考えています。過去に大きな医療事故を経験した群馬大だからこそ、重要なのです。

 読者の皆さんの中には、医学部受験を考えている人がいるかもしれません。成績が良いから医学部に行く、経済的に安定するから医師になる、という考えは置いて、自分が本当に医師に向いているか考えてみてください。

 日進月歩の医学の発展についていくためには、医師を辞めるまで不断の学習が必要です。継続する力はありますか。加えて、他人の痛みに共感できますか、人間は好きですか。相手の目を見て話ができますか。群馬大はそういう人材を求めています。

 高度な研究を行い、先進的な医療を提供するだけではなく、地域に貢献できる良医を育成することが群馬大医学部の使命だと思っています。



群馬大大学院医学系研究科応用生理学分野教授 鯉淵典之 前橋市表町

 【略歴】群馬大医学部卒業後、米国大学勤務を経て現職。専門は環境生理学、内分泌代謝学、医学教育。大学での教育、研究以外に臨床医として診療にも当たる。

2020/12/29掲載

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