医学教育の国際化 学生も教員も精励重ね
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 小・中・高校の教員になるには、教育学部を卒業するか、教職課程を履修する必要があります。教育内容は学習指導要領に示されています。ところが、大学教育にはそのような仕組みはありません。大学教員の本務は研究で、教育はその次、となっていたためでしょうか。

 大学教員は学生時代に受けた教育を思い出し、また先輩教員の手法を手本に我流で学生教育を行ってきました。教育の質保障などなく、カリキュラムも一貫性がありませんでした。しかし、それでは社会のニーズに応えられない、ということで、今は教育方針が明示され、学生教育の研修も義務づけられています。

 私が勤務する医学部も例外ではなく、教員は得意分野だけ講義し、試験は指定した教科書から、講義とあまり関係のないことが出る、という感じでした。山のような症例スライドを次々示すだけの先生(「高速スライダー」と呼んでいた)、ノートだけを見て小声でつぶやくだけの先生もいました。病院実習でも、先生たちが重要と思う病気の患者さんが割り当てられ、本当に学ぶべき病気が網羅されているか疑問でした。

 従って、医師国家試験は授業に頼らず、自力で受験勉強をする、という風潮が最近まで続いていました。これでは国家試験は合格できても、現場で使える知識と技能は十分身につきません。実際「日本の医学部卒業生は他国と比べ臨床能力に大きな差がある」と海外の教員から何度も指摘されました。

 そこで、20年ぐらい前から少しずつ改革が始まりました。まず「医学教育コアカリキュラム」を定め、学習内容を精選しました。私も策定に参加しました。並行し、病院実習にふさわしい知識と態度を評価するため、第2の医師国家試験ともいえる「共用試験」を開始しました。

 4年間の授業を終え、病院実習を開始する前に共用試験によって知識(選択肢択一問題)と態度(実地試験)を評価します。合格しないと診療に参加できません。おかげで学生たちの自由時間は随分減りました。さらに、教育内容が国際基準を満たしているのかの評価も開始しました(群馬大学は2017年に認証)。

 今の医学部教員はコアカリキュラムを踏襲し、国際基準に沿って教育を行わなければいけません。このため、学生教育の研修を受ける機会も増え、教育に費やす時間はとても多くなりました(診療や研究時間が減るわけではない!)。気づけば私も医学教育にどっぷり漬かり、研究や診療より教育に費やす時間が長くなっています。

 振り返れば、最初に目指した「超一流の研究者」とは異なる人生を歩いてきました。しかし、好きで選んできた道ですので、後悔はしていません。良医を送り出すため、これからも学生教育に力を注いでいきたいと考えています。



群馬大大学院医学系研究科応用生理学分野教授 鯉淵典之 前橋市表町

 【略歴】群馬大医学部卒業後、米国大学勤務を経て現職。専門は環境生理学、内分泌代謝学、医学教育。大学での教育、研究以外に臨床医として診療にも当たる。

2021/02/20掲載

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