まちづくりの力 「なりたい姿」導く戦略
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 前橋市の「めぶく。」ビジョンは、語感から「いいね」と感じていただけているかもしれませんが、ビジョンが「何なのか?」はまだまだ曖昧だと思います。

 VISIONは「見る」「見通す」の意味で、そこには「理想像・未来像・展望・見通し」等が含まれています。私は【ビジョン=なりたい姿】と説明しています。

 例えば、高校野球部の【なりたい姿】が「甲子園で優勝」と「野球を楽しむ」では両立が困難です。日本一を目指すには厳しい練習にも耐えなくてはなりませんし、楽しむだけでは勝ち続けることはできません。さらに、チームに「甲子園」組と「楽しむ」組が混在すると、どちらも中途半端で達成できません。

 会社でもまちづくりでも同じではないでしょうか? 経営戦略論で使われる「ビジョナリー」という言葉はこのことであり、成功した経営モデルに倣って描かれた前橋市のビジョンが「良きものが育つ場所」を意味する「めぶく。」なのです。

 野球部が日本一を目指す場合に「どのような戦い方をするか」という基本方針に相当するものが【戦略】です。戦力や競合校の情勢を踏まえて「攻撃型」とか「鉄壁の守備」とかを選択します。攻撃も守備もバッチリなのが理想ですが、メリハリをつけてチーム力を養うのが一般的です。つまり、日本一という【なりたい姿】を実現するための基本方針が【戦略】なのです。

 「攻撃型」か「鉄壁の守備」かが決まれば、練習での優先順位が明確になります。攻撃型チームは打撃練習中心で、半面、守備での投手力への依存度が高くなります。逆に、投手力に欠けるのであれば全員の守備力を高めなければならないので、打撃練習の優先順位は上がりません。

 【なりたい姿=ビジョン】に近づくためには、こうした【戦略】の選択・決定が欠かせません。例えば、経営で言えば「薄利多売」か「少量高単価」のような選択をしていて、どっちつかずではうまくいかず、選択=【戦略】を誤ると損失につながります。

 まちづくりの【戦略】に当たるアーバンデザインでは「高層ビルが並ぶ近代都市」ではなく「水や緑の環境でリラックス」することが優先されていますし、「高度集積な効率的ビジネス街」ではなく「まちなかで住み、働く」ことが選択的に描かれています。

 右肩上がりの経済下では、まちづくりも経済指標達成や交通インフラ充実が目的化していましたが、個性的な【なりたい姿】の議論が欠けていたのではないでしょうか? その点で、【ビジョン:めぶく。】から【戦略:アーバンデザイン】という体系をもつ前橋のまちなかは「いい線いっている」と思います。このことが、広く共有・理解されればまちづくりの力がより高まると確信しています。



前橋デザインコミッション(MDC)企画局長 日下田伸 宇都宮市

 【略歴】清水建設で環境ビジネス、東横インで経営戦略、星野リゾートで旅館再生の事業化に携わり、2020年5月から現職。前橋と宇都宮市の2拠点生活。東京都出身。

2021/02/21掲載

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