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桐生が得意とする「ジャカード織機による帯の製造」という複雑なものづくりは機械、素材、デザイン、加工、営業などの多種多様に分業化された技術の集積です。
しかし、分業化は各工程をブラックボックス化させる面も持ちます。ある工程を改善したい、理解を深めたいと思っても、相手からすれば自分の聖域に踏み込まれたと感じ、警戒されることも多々ありました。とはいえ、すでに各職人さんの高齢化はかなり進んでおり、織物業の核となる技術を早急に身に付ける必要がありました。
その技術の一つが「機械直し」と呼ばれるもので、シャトル織機の調整をする重要な仕事です。本来であれば各工場に担当者が最低1人は必要なのですが、当時の井清は問題が発生するたびに外部から専門家を呼んで対応していました。恩人となる細井清さんとはそうして出会いました。
細井さんは素人である私の細かな質問にも全て丁寧に答えてくれ、機械直しの基礎を全て教えてくれました。細井さんは「道理に沿って丁寧に根気よく」という考えで、表面的な仕事ではなく、根本から理にかなった織機の調整方法を教えてくれました。
細井さんは元々機屋さんだったので、織物づくりで発生するさまざまなトラブルへの対応なども伝授してくれました。勝手に弟子入りしてからの約5年間で、その都度書き取ったメモはやがて分厚いファイルへとなりました。
もう一つ学ぶ必要に迫られていたのが「紋紙データの作成」です。2次元で曖昧に描かれた図案を、立体構造物である3次元の織物に変換するために必要不可欠です。この専門技術者は若い世代にもいるのですが、織物設計をきちんと理解するには欠かせない分野だと感じていました。
どうにかしてこの技術を身に付けたいと願っていた時、京都の職人さんに基礎から手ほどきを受ける機会に恵まれました。先方は下請け工場を探しており、そのための必須スキルとして伝授してもらえたのです。その後何年か勉強を続けた結果、専門技術者とも対等なやりとりができるようになりました。
こうして私の織物に関する知識と技術が少しずつ成長するにつれ、各工程の方々とのやりとりもスムーズになっていきました。
技術を身に付けた人は相手の技術がどの程度なのかを簡単に見抜きます。専門職の皆さんにはそれぞれ確立された仕事の考え方があり、新たな提案を受け入れるには心理的なハードルが高いのですが、こちらが知識だけでなく、実際の技術も持っていると分かると同じ目線で会話をしてくれるのです。
こうして織物の品質も向上し、製造工程も見直し、仕事の質は明らかにレベルが上がっていたのに経営は依然としてかなり厳しい状況でした。