幼児期の泥団子作り 遊びの中で触覚を育む
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 「エーデル」という、点でできた図(点図)を作成するソフトがあります。描画機能を使って自由に点図を描け、点字の文を加えることができます。作成したデータは点字プリンターで打ち出せます。見える方に触覚の情報処理を体験してもらうため、エーデルで打ち出された図形を触っていただくことがあります。

 例えば縦長の楕円(だえん)形と正八角形を並べて一つの紙に点図で打ち出します。紙と紙の間に挟んで見ないようにして両手を滑り込ませて点図を触ります。始めは図形が二つあるのも分かりづらいです。次第に「図形ですか?二つあります?」といった声が上がり、「どっちも丸だ」などの意見が出ます。ここまでで1~2分ほどかかります。「右の図には角がある?」という声にせわしなく手が動き「六角形?」「八角形じゃない?」などの意見が出ます。「左は縦長の楕円?」という声が上がったあたりで触るのを終えます。これまで3分あまりかかったことを確認して目で見てもらいます。紙をめくると1秒もしないで「あ~」という声が上がり、縦長の楕円と正八角形であることを確認します。

 この体験は触覚と視覚の情報処理の違いを具体的に感じていただくことが主な目的なのですが、一方で触覚の情報処理が未開発な方が多いことが分かります。なぜなら触ることに慣れた見えない方に同じことをしていただくと、わずか数秒で縦長の楕円と正八角形を識別する方がいらっしゃるからです。

 視覚情報に囲まれた現代生活ではありますが、触覚による情報処理やコミュニケーションなどの大切さも指摘されています。しかし、意図的に触覚を育むことはあまり行われないのではないでしょうか。そこで、触覚を育む効果的な方法の一つとして幼児期の泥団子作りがもっと評価されてよいのではないかと考えます。

 見えない幼児の発達とその指導方法について多くの研究を残した五十嵐信敬は、手指の運動発達を促すプログラムの中で「粘土を丸める」ことをわざわざ二つのステップにわたって取り上げています。

 粘土を丸めること、泥団子作りには基本的な手指の使い方のほとんどが含まれています。並行して触覚や触感を育み、それらに対応したオノマトペや形容詞などの言葉も学びます。やがては操作したり作ったりする力につながると考えられます。それらを遊びとして幼児期に夢中になって学べることはとても大切ではないでしょうか。

 泥団子作りに取り組む幼稚園の様子を見学させていただいたことがあります。手の汚れを気にせず、わき目もふらないで泥団子作りに夢中な園児たちを見ながら、染み込むような学びがここにあると感じました。



版画家、NPO法人麦わら屋アートサポーター 多胡宏 前橋市江木町

 【略歴】元県立盲学校長で福祉施設などのアート活動を支援。筑波大芸術専門学群卒。定年後、群馬大大学院で視覚障害児の美術教育を研究し、2020年3月修了。

2021/04/07掲載

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