環境変化への想像力 生態系に恩返ししよう
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 生態学(エコロジー)の基礎は「高校生物」の教科書に載っている。食物連鎖や大気圏・水圏を含めた物質循環の仕組み、気候による植生の違いと遷移などを学ぶ。

 生態系サービスという言葉もある。私たちは生態系に汚物や廃棄物、二酸化炭素を吸収・分解してもらい、清浄な空気を供給される。人類が生まれた頃の気候が保たれ、極端な災害からも守られる。

 しかし、教科書でも生態分野は後ろの方へ追いやられ、そこまで履修する人は多くない。教科書の中で先行するのは細胞学や免疫学、遺伝学、発生学、生理学など、生物に共通した生命維持の仕組みである。自分自身の体を知り、自分が生きて人を助けるための知恵を身に付けること、いわば医学的教養は私たちに共通した興味でもあり、必要なことだ。

 そうした理由から生態学は軽んじられ、自分たちと環境との関係を想像する習慣がおろそかになってきた。その結果、どうなっているか。

 植林地の斜面は木の根が浅いため地滑りが起きやすいが、それを予知できない。河川を直線的にし、人工物で大規模に護岸して水流が極端になる現象を引き起こす。アスファルトや冷房の恩恵を当たり前に享受し、ヒートアイランド現象どころか、広域的な温暖化を招く。エコの時代に逆行して夏は夜も冷房を使い、地球を熱くしている。これらが海水温の上昇につながり、低気圧を大型化させ、今までと違う台風の進路にしたことを反省できない。オーストラリアの大規模な森林火災と、日本のゲリラ豪雨や早すぎる春の訪れを、同じ原因によるものと想像できない。そして天気予報の結論だけを待ち、外れれば誰かのせいにしてしまう。

 科学技術で自然を支配でき、自然を変えられると誤解してきたから、未曽有の現象を自然災害とか気候変動といった、あたかも人間の経済活動と無縁に起こったことのように都合よく解釈し、無意識のうちにその思考を次世代に伝えている。

 温暖化による一つの影響は必ず別の問題の原因になり、悪循環が続いて温暖化は加速する。コロナが収束しても、温暖化に起因する別の影響で、マスクなしに街を歩けない時代が続くかもしれない。

 生態学者の中には、人口問題や食糧問題に対して早くから警鐘を鳴らす人たちがいた。新型コロナを通して、人口が多くなれば一人一人の責任意識が薄まるという当然の原理も浮き彫りになった。「自分一人ぐらい構わない」「自分一人が我慢しても効果がない」というわけだ。

 一方、知識と違い、想像力は意識すれば養われる。生態学を履修していなくても、日々のニュースから生態学的に想像する習慣は身に付く。便利さを享受した私たちは、地球環境のために行動する責任と能力を持っているはずだ。



万座しぜん情報館館長 石塚徹 長野県軽井沢町

 【略歴】元高校生物教諭で2018年5月から現職。専門は動物社会学・行動生態学。「歌う鳥のキモチ」など著書多数。金沢大大学院生命科学研究科修了。博士(理学)。

2021/04/15掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事