ホームムービー上映会 日常の中にある「表現」
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 アーティストの宮本博史さんは、地域にまつわる個人的な記憶や家族内で受け継がれてきたプライベートな文化をリサーチして作品化している、ちょっと変わった人だ。ある家族の普段の会話を録音したり、家で長く愛用されてきた日用品(他人の目には何の変哲もないもの)を集めて展示したり、家ごとに違う「おふくろの味」を展示販売したりするのである。

 要するに宮本さんが注目しているのは、日常の中のささやかな「表現」と言ってもいい。芸術やアートといった枠組みでは捉えられない、そして本人も意識していないようなミクロな価値を帯びた物や事に目を向けることで、漫然と反復される日常と、そこに広がる個々人の私的な世界が新鮮に現れてくる。

 その宮本さんがある時、家庭の押し入れに眠っている古いホームムービー(8ミリフィルムなど)を発掘して本人と一緒に見る、という活動を始めた。運動会や家族旅行などを撮影しても、やがて映像機器の代替わりとともに再生できなくなる。そうしたムービーは一種のタイムカプセルだ。個人的な記録とはいえ、必ずその地域の様子が映っているから、他人が見ても非常に興味深いのだという。

 これはぜひ玉村町でもやってみたいと思った。宮本さんに協力いただき、本学で「芸術プログラム」を受講する学生と実施することにした(2015、16年の2度開催)。

 ムービーを集めるにはチラシと口コミ情報が頼りだ。「カメラ好きのXさんだったら持ってるんじゃないか」といった情報をたどり、学生たちの人海戦術で探索。思いのほか難航したが、7件ほど集まった。業者に依頼してデジタル化し、本人にチェックしていただく。「わあ、久しぶりに見た!」と歓声、そしてそれぞれに複雑な表情。

 上映会は一般公開のイベントとして企画した。さらに宮本さんの「おふくろの味」の展示に倣って、ムービーを提供してくれた方々に家で食べているカレーライスのレシピを教わり、学生たちが忠実に再現したものを用意した。

 会場は中高年で満員。皆でカレーを味わってから、上映を始めた。何十年か前の少年野球や結婚式の様子、趣味で自分の母親や町の風景を撮影したものなど。今と変わらない所や、変わってしまった所、あるいは見覚えのある懐かしい人の姿が次々と目に飛び込んできて皆さんが反応する。上映中のおしゃべりはOKなので、思い出話に花が咲き、映っている場所や人物を特定しようと議論が起きるなどして、大いに盛り上がった。

 カレーライスもホームムービーも、極めて個人的な日常に根差した「表現」であり、同時に、記憶を伝達するメディアでもある。いわば普通の人々の普通の営みが持っている魅力を再認識するイベントになったと思う。



県立女子大文学部准教授 武藤大祐 さいたま市大宮区

 【略歴】舞踊学が専門で、2008年から県立女子大勤務。三陸国際芸術祭の海外芸能プログラムディレクターを務める。ダンス批評家として執筆も行う。

2021/05/15掲載

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