春の色合わせ 桜の美しさを暮らしに
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 人生に何が起ころうと、春は訪れる。桜を見上げれば、今、生きていることの幸せに気づく。

 毎年会いに行くのは沼田市の「上発知の枝垂れ桜」だ。田園風景の中にただ一樹、凛(りん)と立つ。木の下で赤い着物を着たお地蔵様が見守っている。1年に1度、これから何度、この桜と会えるだろう。

 満開の桜とタイミングよく会うのは難しいが、花が咲き始める頃から散り際の葉桜まで、それぞれの美しさに心をとめる自分でありたい。

 昨年、花の歴史や文化を紹介する本「神話と伝説にみる 花のシンボル事典」を出版した。古代、桜は春を呼ぶ神の依代。名前の由来にそのことが表れている。

 一説に「サ」は穀物神、「クラ」は降り立つ場所。冬が終わりに近づくと、穀物神が桜の木を目指して山から里へ下り、田の神となって稲に宿る。草花には命の力を与え、春になる。神様と人里とを結ぶ橋渡し役が桜である。

 上発知の枝垂れ桜の次に訪れるのは、樹齢約500年の「発知のヒガンザクラ」。別名「苗代桜」。稲の苗を作る頃に開花することから、そう呼ばれる。まさに神の依代だ。

 古来、日本人は桜の移り変わりを色や形で表現してきた。「桜色」「桜鼠(ねずみ)」は色の名前、「桜川」「花筏(いかだ)」は着物の文様。桜色は花の盛りのピンク、桜鼠は花の終わりや曇りの日の少しくすんでグレーがかったピンクをさす。桜川や花筏は散った花びらが川面を流れる様子をデザイン化したものだ。繊細な美意識を日常の生活で取り入れてみたい。

 桜の花びら模様のハンカチや手ぬぐいを持つだけでも楽しいが、洋服の色合わせで桜を表現すると個性が出る。

 たとえば、淡いピンクのニットを桜の花に見立て、ストールの色でひと工夫する。つぼみの頃には白のストールを首に巻き、ピンクと白とでひと足早い満開の桜をイメージ。黄緑色のストールなら葉桜に。花が散る頃には水色を合わせ、桜川というように。

 こうした色合わせは私のオリジナルではない。さかのぼれば、平安時代。十二単(ひとえ)など装束の配色「かさねの色目」からヒントを得た。2、3種類の色の衣装を重ねて着て、衿(えり)元や袖口にのぞく色の組み合わせで四季の草花を表した。

 白と赤とで「桜」、淡い紅色と萌黄(もえぎ)色とで「桃」、白と緑とで「柳」、濃い紫と淡い紫とで「菫(すみれ)」などがある。食卓やリビングなども、平安の色彩感覚で春を演出してみてはどうだろう。

 長く暮らした東京に比べ、群馬は桜を楽しめる時期が長いのがうれしい。5月上旬、花見の締めは沼田の「石割桜」。大きな石を割って幹が伸びるカスミザクラに、わが道を進む力をいただく思いがする。

 誰にでも、心に残る桜があるだろう。この春、桜めぐりはどこへ行こうか。



文筆家 杉原梨江子 前橋市日吉町

 【略歴】文筆家。広島の被爆樹を取材し、関係者の証言とともに紹介する本「被爆樹巡礼」を出版。2017年、前橋市に転居。広島県府中市出身。武蔵野女子大卒。

2018/03/25掲載

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