都市におけるアート 心に宿る記憶を紡ぐ
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 「六本木ヒルズ」というと、みなさんは何を思い起こしますか?

 どの地域コミュニティーにも、本来私たちが大切にすべき、手に取れない発想や思想が人々の心中に尊い財産としてあふれています。

 今年で15周年を迎えた東京都港区六本木6丁目の六本木ヒルズの一角は昔、木材流通の拠点であったことから「麻布材木町」という名称を持っていました。また、自然に恵まれ、水がきれいな土地柄が故に、ニッカウヰスキーの工場や、金魚屋さんなどがあり、個人商店が立ち並ぶ、日常生活に活気が満ちていた場所だったそうです。時代の流れとともに、さまざまな発展と変化をしましたが、この街を「故郷(ふるさと)」と呼ぶ方々が、今でも生活を営んでいます。

 今年2月から、森ビル株式会社・森美術館が主催する「まちと美術館プロジェクト」の枠組みの中で、アーティストと建築家とともに、5歳から84歳までと幅広い年齢層で、この街で暮らすひと、働くひと、六本木にゆかりのある方々が一緒になり、街の軌跡や歴史を振り返りながら、アイデア出しから実際の形づくりまで協働で進める参加型アートプロジェクト「紡木(つむき)プロジェクト」(メイキング映像 https://www.youtube.com/watch?v=ZxCtJmcPVh0)がスタートしました。

 この活動は参加者それぞれが、自らの専門性や知見を生かしながら進んでいます。4月に1度公の場で公開制作を行い、5月26、27日には、六本木アートナイト(http://www.roppongiartnight.com/2018/programs/10024)で、より多くの方々がプロジェクトに参加できるようにと組み込んだ、この街への思いをつむぐ言葉集めの企画を行います。

 私は、このプロジェクトに関わることで、商業的なイメージのある六本木ヒルズという印象から、住民同士の絆の強さ、また次世代が誇りを持ってこの街のこれからを考え、活動する一面を垣間見てきています。また、参加している方々が、それぞれの解釈でプロジェクトの意味を見いだし、普段アートに関わることはなくとも、アートについて自ら考え、分かち合うきっかけとなっています。

 アートの役割の一つが、日常生活や社会の中でなかなか表に出ないマイノリティーの声などの「ひとの心に宿る記憶」を引き出し、創造していくことだと思っています。特に変化が激しい都市部だからこそ、意図的に行わない限り、それらを記録に残すきっかけを逃してしまい、街の歴史として引き継がれなくなってしまいます。アートをきっかけとし、日常にある声をくみ上げ、これらに込められたメッセージを探求することが、より成熟したアートプロジェクトの発展や発育を生み出す底力になると考えています。



NPO法人インビジブル クリエイティブ・ディレクター 菊池宏子 東京都渋谷区

 【略歴】アーティストの立場からアートプロジェクト企画運営や地域再生事業を国内外で展開。米ボストン大芸術学部彫刻科卒、米タフツ大大学院博士前期課程修了。

2018/05/12掲載

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