人生最初の1000日 未来へ土台作る栄養を
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 赤道直下の島国キリバスで青年海外協力隊、栄養士隊員として活動してきた。その時、ココナツの木の下でのんびりと暮らすキリバスの人たちをみて、ある疑問が湧いた。大人はふくよかな人が多いのに、なぜ子どもは痩せているのだろう。

 実際、成人の50%が肥満、生活習慣病の罹患(りかん)者も人口の3分の1と多い。一方で、子どもの栄養不良、低体重が問題になっていた。ユニセフから発表された「人生最初の10000日」の事実を知り、その理由がわかった。

 母親の胎内にいる時から2歳までの「人生最初の1000日」の栄養摂取で人生が決まるというものである。身体や知能の発育阻害は子どもが幼い時に発現するが、その影響は生涯に渡る。その頃の栄養不良は節約型の遺伝子を発現させ、太りやすく生活習慣病に罹患しやすい体質にしてしまうというのである。

 では、キリバスの人たちの「人生最初の1000日」はどうだったか。現状をみて、驚いた。病院には、毎日のようにうつろな目のか細い赤ちゃんが担ぎ込まれる。その赤ちゃんを抱える母親が手にしていたものは、コンデンスミルクを水で薄めただけの飲み物であった。

 これは何? と聞くと、「牛乳」という。母親にとって、薄めたコンデンスミルクが「牛乳」であり、赤ちゃんに適した飲み物だと信じて疑っていなかったのである。慣習や思い込みが子どもを危険な状況に追い込んでいた。

 私は、現地の看護師、栄養センター職員と共に離乳食の料理教室を行うことにした。ポイントは、やはり「人生最初の1000日」の栄養である。ごはん、魚、野草、粉ミルク、バナナやココナツなどの安価で手に入りやすい食材を組み合わせ、軟らかく煮て離乳食を作った。「お母さん、この食事が子どもの未来を決めますよ」とカップに離乳食をよそり、母親に託した。

 口に運ばれると赤ちゃんは泣くのをやめ、もぐもぐと口を動かし始めた。そこに、かすかなほほえみを見た。うれしいことに、ターゲットとしていた9人の赤ちゃんは順調な体重増加をみせ、1カ月足らずで生命の危機である超低体重ゾーンから抜け出した。適切な栄養摂取で子どもが救われる現実、そして、子どもを守る大人の役割をみた。

 帰国後、キリバスの栄養センターの同僚から子どもの名前をつけてほしいと願いを受けた。私は現地語の響きにも合う「心(ココロ)」という名前を届けた。ココロにはどんな未来が待っているだろう。きっと、人生最初の土台作りにたっぷりの栄養と愛情を受け、後に大輪の花を咲かせるだろう。そして、ココロが「人生最初の1000日」の大切さを母親と共に広め、明るい未来へつなぐ先駆者になってほしいと心に願っている。



栄養教諭 深沢恵美 高崎市京目町

 【略歴】安中松井田小栄養教諭。国際協力機構の青年海外協力隊で2015年7月から17年3月までキリバスへ派遣された。高崎女子高―神戸学院大卒。

2018/06/10掲載

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