宇宙が作る重元素 天文学が解く金の起源
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 宇宙というと私たちから遠く離れた縁遠い世界と思われるだろう。しかし、夜空に輝く星も、写真でしか見ることのできない遠くの銀河も、私たちの身の回りのものと同じような物質からできている。

 ここで物質というのは、水素や酸素、鉄といった「元素」のことである。人体の3分の2は水といわれるが、それはすなわち水素と酸素である。人体にはカルシウムやナトリウムも必須である。

 これらの元素が太陽のような星にあまねく存在していることが認識されたのは20世紀に入ってからで、その量がそれなりに正確に測られるようになったのはたかだか40年か50年前のことである。

 多種多様な元素は宇宙の誕生当初から存在していたわけではない。ビッグバン直後の宇宙には水素とヘリウム、微量のリチウムという軽い3元素しか存在せず、それ以外はすべて星のような天体で作られてきた。そのおおまかなプロセスが解明されたのは今から60年ほど前のことである。「私たちを形作る物質は宇宙の歴史のなかで作られてきた」と聞けば、宇宙も少しは身近な存在と思えるだろう。

 そのなかで大きな謎として残されていたのが、金やプラチナ、ウランなどの重い元素の起源である。これらは他の元素とは作られ方がだいぶ違う。自然界で最も重い元素はウランだが、これは放っておくと遅かれ早かれ壊れてしまう。逆にいうと、作り出すのが難しい元素なのである。このような重い元素は、地上では考えられないようなすさまじい爆発の際に一瞬にして作り出さないといけない。

 宇宙で爆発といえば、まず思い浮かぶのは重い星がその最期に起こす「超新星爆発」である。超新星では鉄やチタンなど主要な元素が作られる。これまでの教科書では、金やウランも超新星爆発で作られる、と書かれていた。しかしここ10年くらいで超新星爆発の研究が進み、超新星ではなかなか重い元素を作り出すのにふさわしい環境が整わないことがわかってきた。

 一方、超新星爆発の後には中性子星とよばれる小さな星が残ることがある。この中性子星同士が合体すると、ウランに至るまでの重い元素が作られるのではないか、という説が以前からあった。このような合体は銀河系全体でも10万年に1度といわれるほどまれな出来事と考えられているが、広い宇宙ではこれが実際に起こっていることが昨年「重力波」という現象の発見により初めて突き止められた。その際に重い元素が大量に作られるらしい。地球数個分の重さの金が一瞬にして作られると見積もられている。

 金のように人々に親しまれてきた元素の存在も、最新天文学が明らかにしつつある宇宙の現象と密接に結びついている。10年後の教科書では、重元素の起源の説明は一新されているかもしれない。



自然科学研究機構国立天文台准教授 青木和光 東京都羽村市

 【略歴】国立天文台の研究員・助手などを経て、2012年から現職。総合研究大学院大准教授。理学博士。東吾妻町出身。東大理学部天文学科卒。

2018/06/28掲載

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