台湾の芸術祭 あふれ出る理念や思い
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 アーティストが自然と対峙(たいじ)した時自らを映し出す芸術祭が、ここにあった。

 世界各所で開催されている芸術祭。文化・芸術の発展や普及に寄与する祭典から、コミュニティーづくりや地域資源を生かした観光促進を目的としたもの、また東日本大震災を受け、芸術祭が社会課題の解決の糸口になるような試みなども見受けられます。同時に芸術祭もバブル期を迎え、改めてそれらの役割や開催する意義・意味などが問われています。

 先日、「台湾東海岸大地芸術節(東海岸大地の芸術祭)」を視察しました。今年で4回目となる芸術祭の会場は、台湾原住民アミ族が暮らし、彼ら特有の伝統文化が引き継がれている自然環境と観光資源に恵まれた台湾東部一帯で、東部海岸国家特定区としても知られる花蓮県から南に台東県へ抜ける総長168キロ。昨年のテーマ「潮間共生」を引き継ぎ、今年は「島、群の中で」という副題を掲げ、台湾が、環太平洋文化において忘れかけている自らの「海洋性」を再探索し、海を越えた世界との関係を見つめ、考え直す機会として企画されています。

 この芸術祭の特徴は、原則、長期滞在をしながら作品制作をすることと、可能な限りこの地の素材を使うことを条件に、地元・海外アーティストを招聘(しょうへい)しているところです。時間をかけて大自然に対峙することで自らを映し出し、地元の人々と交流を深める中で個性的な作品が生まれることが期待されています。

 また、台風や自然災害も多くある場所だからこそ、たとえ作品がその形を失ったとしても、自然に悪影響を与えず、素材さえあれば、繰り返し復活させることができることで、一度関わったアーティストの作品が形は変われども場所そして人々との関係が継続することにあります。ある意味、目の前のことと向き合う仕組みがあることで、アーティスト自身も過去の経歴や作風にとらわれず、新たな境地に立つチャンスとなり、それ故に彼らが創り出すものには、大地への恩恵が感じられ、誠実で、かつたくましい作品が見受けられました。

 期間中に行われる野外イベントは、全て満月の日に開催され、私たちの目の前で、東海岸の水平線から昇り、満月の不思議な力が解き放つ光が、オープニングセレモニーのステージをより幻想的な空間へと仕立て上げていました。イベントの時期すらも自然のルールに従うことなど、企画側がこの芸術祭を通じて徹底して伝えたい理念や思いが、至る所からひしひしと伝わってきました。

 今年の芸術祭には、海と山々に囲まれた独特の地形・空間に、過去の作品を含む約20点が自然と共存するかのように存在しています。日本からも梅田哲也氏と菅野麻依子氏が参加。11月30日まで開催されます。



NPO法人インビジブル クリエイティブ・ディレクター 菊池宏子 東京都渋谷区

 【略歴】アーティストの立場からアートプロジェクト企画運営や地域再生事業を国内外で展開。米ボストン大芸術学部彫刻科卒、米タフツ大大学院博士前期課程修了。

2018/07/17掲載

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