イノベーション 現場のニーズを起点に 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 日本国内のデジタルヘルス事例を紹介してきたが、海外はさらに積極的だ。大塚製薬は2017年、世界初のデジタルメディスン「エビリファイマイサイト」を開発、米食品医薬品局(FDA)の承認を受けたと発表した。日本の大塚製薬創製の抗精神病薬「エビリファイ」に、プロテウス社が開発した微小センサー、シグナル検出パッチ、専用のアプリケーションを組み合わせ、服薬モニタリングが可能となった。

 精神病患者の中には服薬管理に大きな課題を抱えるケースが少なくない。服薬モニタリングのために、薬にセンサーを組み込むというアイデアは昔からあったが、本当に実現したというニュースは多くの製薬企業関係者を驚かせた。プロテウス社は米国カリフォルニア州にあるベンチャーだ。ベンチャーは前例がない取り組みであっても野心的なチャレンジが可能だ。

 医療機器開発に詳しく、デジタルハリウッド大大学院で学ぶ前田祐二郎に医療イノベーションの創出について話を聞いた。前田はスタンフォード大の医療イノベーションプログラム「バイオデザイン」の日本の共同プログラムディレクターを務める。

 バイオデザインとは、01年にスタンフォード大で始まり、医療機器イノベーションに必要な考え方やスキルを、ニーズを出発点とし、実践的に習得するプログラムだ。「Identify」(ニーズ探索)、「Invent」(コンセプト策定)、「Implement」(事業化)の三つのプロセスからなり、それぞれを合計10カ月かけて学ぶ。その中でも特に重点を置かれるのは、最初のニーズ探索だ。イノベーションは、テクノロジーの飛躍的進歩が起こすというイメージが強いかも知れないが、それだけで不十分で、テクノロジーが現場の困っていることを解決して初めて成功する。

 バイオデザインは現場を重視し、最初の2カ月間は医療機関の臨床現場に張り付いて現場を観察し、医療チームの一員となり現場を経験する。できるだけ多くの課題を発見すること、問題を深く吟味して問題の真髄(しんずい)は何かを見極め200個以上のニーズリストを作ることから始まる。その後できるだけ多くの解決策を考える。良いイノベーションは最初の良いニーズの発見から始まる。

 日本ではどうだろうか。ニーズ起点の発想ができているだろうか。過去の成功体験に依存し、その発展系でしか成長戦略を描けていないのではないか。経営戦略を立てる部署の人が現場に来ないで現場と経営との乖離(かいり)が起きてしまっていないだろうか。バイオデザインは医療機器イノベーションのための実践的プログラムだが、ニーズ起点のプロダクト開発という点は全ての産業にも応用できるのではないか。



お茶の水循環器内科院長 五十嵐健祐 東京都千代田区

 【略歴】老年病研究所附属病院などを経て、2014年に東京都内で開業。デジタルハリウッド大大学院専任准教授。高崎市生まれ。高崎高―慶大医学部卒。

2018/07/16掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事