キリバスでの挑戦 喜ぶ誰かに出会いたい
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 栄養士として誰かの役に立つことを目指した青年海外協力隊へのチャレンジ。活動の舞台は、太平洋に浮かぶ途上国キリバスであった。派遣国で目にしたのは、大きなたらいに水をため、大量の服をゴシゴシと洗うお母さん。そして、その周りで元気に走り回る子どもたち。その手には、ココナツの葉で作った風車がくるくると回っていた。

 昔の日本風景を彷彿(ほうふつ)させる一見のどかなキリバスの日常であったが、昔と今で変わってしまったものがあった。それは、食生活である。

 昔、キリバスでは自給自足の生活を営んでいた。魚やココナツ、バナナ、パンノキの実、イモである。ここに野菜はないが、パンノキやタロイモに主食と野菜の両方の栄養が含まれ、総合的に栄養のバランスはとれていたようである。そのため、キリバスの祖先たちは引き締まった肉体をもち、健康的であったことが当時の写真からうかがえた。

 その後、米、缶詰、砂糖など比較的安価な輸入食品が出回るようになり、食生活は劇的に変わった。毎食がほぼ「ごはんと魚の缶詰、砂糖水」。しかも、その量は驚くほど多い。ある友人が言っていた。「ごはんは水をいれて炊くだけだから簡単でいい。木に登ったり、土を掘る必要もない」。変化は、人々の活動量も減少させていた。

 そして、今、国民の健康状態の悪化が問題となっている。ある統計に、キリバスの国民の半分が肥満、3人に1人が糖尿病という驚くべき数値がでていた。特に主食が米に変わったことによる影響が大きい。パンノキやイモなどに含まれる野菜がもつ栄養部分がなくなり、大量のごはんの摂取が高血糖状態を引き起こしていたからである。

 私は、主食に米を選択する場合、そこに必ず野菜を加えるべきだと考え、野草を用いた料理教室を開始した。自生する野草はただで入手可能であり、さらにキャベツなどの輸入野菜よりもはるかに高い栄養価があったからだ。この活動が人々の健康を守ると信じ、現地の栄養センターの同僚と共に各地を巡り、カボチャの葉など野草を使ったカレーやトマトクリーム煮などを振る舞った。気づくと、料理教室の回数は130を超えていた。しかし、不安がなかったわけではない。この活動は、人々の心に届いているのだろうか。ただの自己満足にすぎないのでないだろうか。

 帰国間際、一筋の光を見た。

 外から子どもの声が聞こえる。のぞいてみると、以前までココナツの風車で遊んでいた子どもたちが、今度はなにやら別の何かを摘んでいる。それはカボチャの葉。私たちが推し進める野草であった。

 こんな私でも誰かの喜びになるかもしれない。今の私の自信につながるキリバスの忘れられない一こまとなった。



栄養教諭 深沢恵美 高崎市京目町

 【略歴】安中松井田小栄養教諭。国際協力機構の青年海外協力隊で2015年7月から17年3月までキリバスへ派遣された。高崎女子高―神戸学院大卒。

2018/08/12掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事