地域と健康とアート 「遊び」尊重した拠点を
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 昨今、高齢化や人口減少などの課題に対してまちづくりやアートプロジェクトが全国各地で展開されています。私は3年ほど前から、高齢化や後継者の減少によりシャッター街になりつつある新潟市南区白根商店街にて「天昌堂プロジェクト」という地域拠点づくりを行っています。

 天昌堂は、昭和初期から住民を雇用し、地元の中高生の学生服販売など、当時のファッションをリードする地元地域文化の象徴でもあり、生活に密着した多世代の交流の場でもありました。

 現在南区は、新潟市の中で最も不健康という調査結果があり、特に白根地区は高齢者のみの世帯数が県内平均よりも多くなっています。長期化する冬や猛暑日が増え続ける夏の天候も影響し、生活環境の中で、体を動かし、心身を活性化させる機会、場所、時間に限りが見られます。公園などの公共施設は、多くの規制があることから、自由な発想で「遊ぶ」ことが難しくなっています。

 そこで2016年から、アーティスト、建築家、地域医療の専門家、役所、住民と協働し、地域全体の健全化を目的とし、「代替医療」として現代アート・文化が果たせる効果をあらゆる角度から実験・実証しながら創出するコミュニティースペースを形成しています。医療業界の視点からも調査・分析を加えます。17年には、天昌堂で使われていた鉄のハンガー掛けなどの資材を活用し、使い手が使い方を発想する遊具を20作品ほど発案。遊具がある屋内公園のような場を制作しました。

 新潟市主催の「水と土の芸術祭2018」の一環として、公衆衛生的なアプローチから高齢化社会を研究する新潟大の菖蒲川由郷先生や、地域と協働した運動疫学を専門とする篠田邦彦先生を交え、住民の方々と共に、実際に遊具を使いながらアートと健康を意識した遊びのアイデアを出すワークショップを2日間実施。アートと健康、遊ぶなど言葉を再定義し、遊戯の要素など、さまざまな角度から利用者の要求とも照らし合わせ遊びを再検証しました。

 結果、体を動かすことのみならず、子どもが楽しそうに遊ぶ様子を遠くから見ることも、ただ滑り台の周りでおしゃべりすることも健康につながるなど、既存の考えを越えたアイデアが生まれました。

 アートの視点や思考を取り入れた活動は、地域社会が持つさまざまな課題を浮き彫りにし、個々の健康状態は、ライフスタイルや環境、保健医療の違いなど個人の責任範囲によってのみ定義されるだけでなく、それぞれが属する社会の政治・社会・経済的環境といった社会的要因に起因するものもあります。コミュニティーの希薄化やストレスを抱く機会の多い現代の生活において、このような複合的な視点から健康を意識したまちづくりが必要だと考えます。



NPO法人インビジブル クリエイティブ・ディレクター 菊池宏子 東京都渋谷区

 【略歴】アーティストの立場からアートプロジェクト企画運営や地域再生事業を国内外で展開。米ボストン大芸術学部彫刻科卒、米タフツ大大学院博士前期課程修了。

2018/08/17掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事