加速膨張の発見 一変した宇宙の未来像

 宇宙はビッグバンで始まり、それ以来膨張を続けている―という話を聞いたことのある方は多いだろう。宇宙が膨張しているということがわかってきたのは今から90年ほど前のことである。

 自分の学生時代、つまり今から20年ほど前には、宇宙の膨張は徐々に遅くなると考えられていた。宇宙にはいろいろな物質があり、その重力によって膨張が引き留められるはずだからだ。地上で投げ上げたボールがだんだん失速していくようなものである。問題は、重力が勝っていずれ宇宙の膨張は止まり、逆に縮み始めるのか、それとも重力が不十分で、減速しつつも膨張がいつまでも続くのか、という点だった。

 ところが、ここ20年で私たちの認識は一変した。膨張は減速するどころか、加速しているという研究結果が出てきたのである。この常識を覆す発見をもたらしたのは、遠くで起こる星の爆発を調べる研究だった。詳細は省くが、宇宙のいろいろな時代に起こった爆発現象までの距離と、それが遠ざかる速さを一つ一つ調べていくと、宇宙の歴史のなかで膨張の速さがどう変わってきたのか、知ることができる。

 ほかにも銀河の群れ具合の変遷だとか初期の宇宙の物質の分布だとかの調査が大きく進んだこともあって、宇宙の膨張が加速しているということが次第にはっきりしてきた。これは驚くべき話で、先の例えでいえば、投げ上げたボールが失速するどころか、むしろどんどん加速して地球から飛び去ってしまうようなものである。

 膨張を加速させるにはエネルギーが必要と考えられるがその正体は全くと言ってよいほどわかっていない。さしあたり暗黒エネルギーと名付けてその性質を調べる研究が行われている。間違いなく宇宙の研究のうえで最大の問題の一つである。

 そしてこれは宇宙の未来を左右する問題でもある。このまま膨張が速くなっていくとどうなるか? 私たちの周りの天体はお互いの重力で強く引きあっているので、当面は宇宙の膨張にはあまり関係なく姿を保つ。だがそれも時間の問題で、膨張が加速し続けるとやがて重力をしのぐようになり、近くにあった銀河もどんどん遠ざかって光の届く範囲すら超え、消え去ってしまう。さらには銀河の中の星すら引き離され、ついには星そのものや私たちの体すら引きちぎられてしまう……。そんな恐ろしい未来予想もある。

 この予想が正しいか判断するには私たちの知識は不足している。いずれにしても宇宙138億年の歴史に比べてもはるかに先の話であるのだが、宇宙の未来像がわずか20年でここまで変わってきているということはぜひ知っておいてもらいたい、と思う。



自然科学研究機構国立天文台准教授 青木和光 東京都羽村市

 【略歴】国立天文台の研究員・助手などを経て、2012年から現職。総合研究大学院大准教授。理学博士。東吾妻町出身。東大理学部天文学科卒。

2018/08/23掲載

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