シティーミュージアム 「都市の顔」をつくろう
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 私たちが旅をするとき、何を目的にその地を訪れるだろうか。豊かな自然、滋味豊かな郷土料理、歴史的町並み、温泉、人との出会いなど、旅の目的はさまざまであろう。

 旅先でそれらを楽しむにあたり、少し背景を掘り下げると、さらに旅は豊かになる。例えば、尾瀬の自然に感動したなら、その地理的環境はどのように形成され、そこにどのような生態系が存在しているのかが知りたくなる。山間にたたずむ薬効豊かな湯治場の源泉はどのような成分をもち、いつから人々を癒やしてきたのか。江戸の佇(たたず)まいを残す宿場町はいかなる産物を集散したことで栄え、どのような人々が去来したのだろうか。興味は尽きない。

 このような問いに答えるのが、各種の展示館である。国立公園にはビジターセンターがあり、宿場町には町並み展示館のようなハードが用意されている場合がある。海外旅行に行った時も、現地の遺跡や歴史的建造物に感動し、出土品が収蔵された博物館に訪れる人が多いだろう。

 自然環境とそこに適応した人類の多様な営みを知るために私たちは旅する。しかし、旅人だけでなく、その地に暮らす人にこそ、自らの営みを振り返る場が必要である。町には町の来歴があり、残し、伝えなければならないものがある。そのために必要な活動を行う「機関」が博物館である。

 ところが、群馬県には「総合博物館」が圧倒的に少ない。誤解がないように言えば、テーマ性・地域性を絞った小規模館は相応に存在し、特徴ある活動を行っている。しかし、ひとつの市における自然・歴史・民俗・文化を総合的に扱い、トータリティーをもって市域の資料の収集・保存・研究・展示・教育普及を担う中核的な博物館を持つのは、県内12市のうち2~3市に過ぎない。

 例えば、私たちの町は城下町として栄えた。社寺を中心に信仰の場として崇敬を集めてきた。養蚕地帯として独特の文化を生み出した。職人の町であった。川の港町として江戸の経済とつながっていたなど、博物館はこうした町のなりたちを知る場なのであり、住民はそれを知ることで町に愛着を覚え、誇りをもって子どもに伝承することが可能となる。

 群馬県内の多くの市も、そろそろ都市の顔であり、都市の品格を体現する博物館(シティーミュージアム)の設置を真剣に考える時期ではないだろうか。だいぶ遅いが、まだ資料の散逸を防ぐこともできるであろう。なお、先に博物館を「施設」でなく「機関」と書いたのは、博物館は単なる「箱」ではなく、それを生かすための理念と人的資源が備わっていなければならないからだ。学芸員は無論だが、有能な管理職員と、館を核に活動する市民が備わってこそ博物館は「まちのため」に有効に機能するのである。



明治大准教授 若狭徹 高崎市貝沢町

 【略歴】前高崎市教委文化財保護課長。2017年4月から現職。古代歴史文化賞、浜田青陵賞を受賞。著書に「前方後円墳と東国社会」。博士(史学)。高崎高―明治大卒。

2018/09/03掲載

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