「上級」からの転換 時間が育む醤油の味
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 有名なことわざで「石の上にも3年」と耳にしたことがあるかと思います。何かを成し遂げたいと思うのならば最低3年間は捨てる覚悟でその物事に取り組むべきだという意味です。日頃3年の時間をかけて醤油(しょうゆ)をつくっている立場としては、何か新たなチャレンジをする時は3年では明確な結果は出ず、むしろ10年単位で臨む心構えが必要です。

 ある意味、これまでの固定観念を捨て相当に気合を入れて10年間続ける覚悟を持って物事に取り組まないとなかなか目的を達成できないと思っています。

 思えば7代目を拝命してから自分が信じるものづくりの表現ができるようになるには10年の年月が必要でした。それまで父が代表を務めていた頃は当社のものづくりの方向性の過渡期であり、理想と現実の両面を抱えながら歩んでいたように思います。一つの現実を例として挙げるとすれば、それは当時当社を代表する3本柱の一つであった「上級しょうゆ」の存在でした。

 日本農林規格(JAS)で決められた等級に特級・上級・標準の3種類があります。JAS認定工場で製造されたしょうゆの種類によって、その特性や、うま味成分の指標である窒素分、色の濃さ、薄さなどの分析結果と、専門の検査員が官能試験を行った結果を元に等級が決められています。

 当時弊社が製造していた上級しょうゆはアミノ酸液といって合成的に製造されたうまみ調味液(大豆たんぱくや小麦グルテンを酸分解したうまみ成分が高い液体)を混合したタイプでした。全醤油出荷量の3分の1を占める主要な銘柄でしたが、人の都合でつくるのではなく、自然なものづくりをしたいという理想を選択し、上級しょうゆの製造を思い切って取りやめたのが10年以上前の出来事でした。

 以来試行錯誤を繰り返しながら、若気の至りを感じる暇もなく、自然なものづくりであり、醤油醸造の原点でもある天然醸造法のみに特化した醤油づくりに製造体制を戻しました。先人が築いた土台の上にまた新たな天然醸造醤油の可能性づくりに邁進(まいしん)した結果、10年の年月が流れていました。

 かつて父が向き合った現実は過去の記憶になってしまいましたが、その当時既に蒔(ま)いてくれていた理想の種・天然醸造醤油づくりは現在会社の基軸になっています。

 醤油づくりにおいて時間という存在は、決して欠かすことができない要素であり、醤油の出来不出来を左右する大切な味の一つです。何かと目の前の予定に忙殺されがちな毎日ですが、時間をかけてつくり続けてきた醸造場の空気に身を置き、とても大きな時間軸を感じることによって責務と誇りを新たにしています。



しょうゆ製造・販売「有田屋」第7代当主 湯浅康毅 安中市安中

 【略歴】信州ジャスコ(現イオン)退社後、2002年に家業の有田屋に入り、第7代当主に就任。学校法人新島学園理事長。米ジョージワシントン大卒。

2018/09/06掲載

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