英語の理解から表現へ 「伝えたい」が上達の鍵

 英語学習において、近年コミュニケーション能力が重視され、「話す能力」を焦点とした教育が中心になっています。しかし、「話す」ためには相手の話を聞き取らなくてはなりません。対話者間の相互作用がコミュニケーション活動の核にあります。

 その原型は母子間の音声の相互作用です。そこには「啐啄同時(そったくどうじ)」という現象が見られます。「啐」とは鶏卵が孵化(ふか)しようとするとき雛(ひな)が殻内でつつくことです。「啄」とは母鶏がそれに応じて外から殻をつつくということです。雛がつついている音を母鶏が的確に聞き取り、殻をつつかないと雛は孵化しないのです。

 母子間の音声の相互作用では、赤ちゃんは自分が発声した直後にお母さんがおうむ返しに声を出してくれることが喜びなのです。両者にとって親愛の情が表現され、共感しあい、共鳴するという相互作用に至ります。

 世話人ことばという考え方があります。育児語が代表的なものです。親が子どもに語りかける時に抑揚を誇張したり、ゆっくりした速度にしたり、同じことばを反復したりします。子どもに理解可能な話し方をしているわけです。

 教師ことばも世話人ことばに入ります。したがって、英語のクラスは英語で授業を進めることが原則になっていますが、適切な日本語の使用も不可欠です。特に理解の段階で必要です。問題は理解した段階で学習が終了したと錯覚することなのです。どの学習段階でも理解から表現へ進まなくてはなりません。

 英語の習得が困難な理由は日本語との距離が大きいことです。まずは、基本的な英語音を聞き取り、発声できることが肝心です。教室では先生や音声教材をモデルに練習してください。その他に、ラジオやテレビやインターネットで自分のレベルに合った番組を利用しましょう。

 文字が5年生から導入されますが、文字と発音の関係を習得しなければなりません。単語でも文でも必ず文字を音読しなくてはなりません。学習の基盤となる方法は音読です。いくつかの方法があります。教師やCDのモデルの後に続けて発声する繰り返し、文を見ながら、音声のモデルと同時に発声するオーバーラッピング、文を見ずに、耳から聞こえてきた音声を聞こえたままに発生するシャドウイングなどがあります。音読は自習にも適した方法です。

 文字を媒介にすると記憶が深まります。日常的なやりとりからまとまった内容を発表する能力に高めていく必要があります。英語学習の基盤は発音、語彙(ごい)、文法という大枠を押さえなくてはなりません。その上でさまざまなコミュニケーション活動で能力を錬磨し、実際の場面に備えましょう。やり直しは何歳からでも可能です。伝えたい内容さえ持っていれば必ず上達します。



早稲田大名誉教授 神保尚武 富岡市七日市

 【略歴】前大学英語教育学会長。早稲田大商学部教授時代にNHKラジオ「基礎英語」講師。高崎高―国際基督教大卒。早稲田大大学院修士課程修了、博士課程中退。

2018/09/12掲載

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