箱根駅伝の「力」 心を作ることで成熟
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 箱根駅伝に指導者として戻って今年で10年目となります。箱根駅伝の予選会も終わり、いよいよ戦いが始まります。箱根駅伝は毎年ありますが、学生が入れ替わる中で毎年違うメンバーで準備します。

 そのスタートラインに立つまで、毎年さまざまなことを乗り越え準備していきます。それが高い壁であって乗り越えることができたとき、最高の準備をすることができた、成熟したチームを作れたといえます。箱根駅伝は学生たちにとって晴れ舞台であり、成長させてくれる場であります。あらためて大会の「器」の大きさを感じざるを得ません。

 長距離部員全員が「箱根路を走りたい」という夢を抱き入部してきます。全員は出場できませんので、個人の目標が絶たれた時にチーム目標に向かって行動ができるかどうか。自分と深く向き合う機会は、好調なときよりも、うまくいかない時や不調な時です。不調な時にこそ、自分を客観的にも見ることができると思います。

 この時に、心のこもった言葉をかけてくれたり、傷ついた心をあおったり詮索することなく優しく見守ってくれるような人がいたり…。自分にとって、真の友や恩人が誰だかが分かります。自分と心から向き合うことができた時、それは自分の新たな一面を成長させていくスタート地点です。

 箱根駅伝には自分の内面を揺さぶってくる「力」があり、それが成長につながります。私は学生最終学年時に主将でしたが、選手から外れサポートにまわりました。その経験が後の実業団選手や教員、監督となった現在も生きた財産として自分の一部になっています。箱根駅伝で勝つことは目標ですが、人生の過程で考えれば、さほど大きなことではありません。チームも個人も、めざすことで一歩ずつ成熟していくのだと思います。

 人は誰でも、誘惑、挑発、勧誘に負けてしまうものです。しかしトップアスリートには強い芯が必要です。何かあった時に自分が正しいと思ってきた感覚や認識にズレがなかったか、もう一度振り返る機会として捉えられるか、それを人生の糧とできるか。その判断が、その後の人生を大きく左右していきます。

 何かが起こった時に、ヒントと捉えて内省し、変革することが、人や組織を成熟させるものと考えます。正しいと思っていた感覚や認識が、少しズレてきているなら軌道修正は必要です。自分の人生に起こることで意味のないことはありません。何かのツケが回ってきたかもしれないし、変化のため気づかせるように起きていることかもしれません。

 「心を作ること」が学生時代に必要だと、あらためて、感じています。スポーツを通じてそれを部員全員が理解し達成できることが私の目標です。



東洋大陸上部男子長距離部門監督 酒井俊幸 埼玉県川越市

 【略歴】東洋大からコニカミノルタに進み、全日本実業団駅伝3連覇。学法石川高(福島県)教諭を経て、2009年東洋大監督就任。箱根駅伝3度優勝。福島県出身。

2018/11/01掲載

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