クリエイティブな人材 育成は未来への投資
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 オーストリア・ザルツブルクに拠点を持ち、1947年設立から、次世代リーダーのネットワーク構築と、グローバルな課題解決に向けた議論を行う「ザルツブルク・グローバル・セミナー」。この活動の一つ「ヤング・カルチャル・イノベーター」プログラムに、講師として参加してきました。

 この活動は、文化芸術を含むクリエイティブな視座から、地域社会の活性化や社会での新たな価値の創造に取り組む25~35歳前後の若手55人が公募を経て集まり、6日間、意見交換や共通課題の解決を目指した研修を行います。

 二つの柱があり、一つは「キャパシティー・ビルディング」という組織を動かすために必要な能力・技術を学ぶことです。もう一つは私が担当した「ピア・メンタリング」で、同様の課題を抱えた仲間同士が支えあい、おのおのの現場でより自発・自律的な活動につながるよう後押しをすることで、技術面と精神面を同時に強化するような仕組みとなっています。

 研修というと、何か教えるという発想になりがちですが、ピア・メンタリングでは、それぞれの弱さをさらけ出しながら対話を重ねることで、本来の力や潜在的な能力や発想が導き出され、逆に強みが見えてくる独特なプロセスです。

 彼らの言動から浮き彫りになったことは例えば、各国特有の社会課題を直視しながらも、彼らの社会の隙間を見る洞察力、分野やメディアを横断的に捉え、多角的なパイプラインをつくりながら課題解決の方法や戦略などを既存の考え方ではない発想をもって具体的に伝えるオリジナルの方法を編み出す力があること。

 また、社会的に弱い立場にいる人の気持ちを理解する努力ができ、彼らの思いをアクションに落とし込める想像力と、そこへのリスクを背負う覚悟があること。

 そして、即効的な利益よりも、持続的・持続可能な仕組みを考え、結果、アート・文化が尊重され、円滑に循環する文化資本と経済資本のバランスを構築した仕組みを生み出す能力があること。

 それぞれが内に秘めた素直な力を共有することで、互いを刺激し、高め合うことで、自信につながり、断固たる理念と価値観を兼ね備えたリーダーシップ的な側面が表面化するのです。

 価値観の違いを認めた先にのみ見える優しい社会。それぞれの場所で直面する課題に真っ向から向き合い、小さな変化を起こしながら日々謙虚に戦う人たちの姿は、強くもあり、実に繊細でもあります。このような人間らしさをむき出しにしながら頑張る未来のクリエイティブな人材をサポートし、育成する仕組みや環境が、文化芸術の分野に限らず、日本国内のあらゆる領域でも増えていく重要性と必要性を感じる時間となりました。



NPO法人インビジブル クリエイティブ・ディレクター 菊池宏子 東京都渋谷区

 【略歴】アーティストの立場からアートプロジェクト企画運営や地域再生事業を国内外で展開。米ボストン大芸術学部彫刻科卒、米タフツ大大学院博士前期課程修了。

2018/11/07掲載

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