イイトコの存在 「良かった」の声と共に
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 放課後、障害のある子どもを預かる放課後児童デイサービス(放デイ)に勤めていた頃があった。あるお子さんを預かった時のこと。そのお子さんが特別支援学校で、つらい一日を過ごしたと学校の先生から言い伝えがあった。

 放デイでも彼は自分を傷つけてしまっていたので、お母さんに早めに迎えに来てほしいと連絡を入れた。1時間後に迎えに来たお母さんこそ、疲れ切っていた。私は学校からの伝言や放デイでの様子を伝えようと待ち構えていたが、お母さんは車に子どもを乗せ、無言でうつむいたまま発進してしまった。

 障害があるということは子どもの育てづらさを感じることだろう。あの時、このお母さんの声を聞かせていただいていたら少しは変わっていたかもしれない。申し訳ない思いをずっと抱えていた。

 障害のある子どもを守る制度はいろいろあるが、その子どもたちを育てているお母さんや家族を守る制度は何一つない。相談窓口といわれる所はあるが、時間も空間もお母さんの思いに沿ったところだろうか。そう考えたら事務的なコンクリートに囲まれた空間ではなく、子育てに頑張るお母さんが安心できる居場所を作りたいと思った。

 iitoko(イイトコ)は障害のあるお子さんを育てるお母さんにとって実家のような存在であり続けたいのだ。放デイを辞めて仲間を募った。ボランティアという形であるが、それぞれが力を貸してくれた。2014年、iitokoを設立した(18年10月25日、特定非営利活動法人に)。

 20軒くらい空き家を見て回った。お母さんや子どもたちを迎える居場所の条件は何しろ畳のある民家だった。2カ月歩いて探していた途中「ここだ!」と思う家があり、すてきな大家さんとの出会いがあった。高崎市の空き家改修工事助成金を使わせていただき、本当に安らげる居場所が出来上がった。

 iitokoのスタッフとしてお母さんや保育士、美容師、農家の皆さん、教育関係者、ご近所の方々など、皆が関わってくださった。

 障害のある子どもを育てる頑張るお母さんのSOSはすぐそこにあった。例えば、お子さんの髪の毛を切ること。例えば、買い物にスーパーに行くこと。例えば、外食すること。例を挙げると何でそれがSOSなの? と初めは理解されにくい。障害には目に見えてわかるものとわかりづらいものがある。世の中の一人一人が障害を理解できたら、どれだけ子育てが楽になれるだろうか。

 iitokoは頑張るお母さんのSOSに応えると同時に、共に笑ったり泣いたり、ちょっとした子どもの成長を喜んだりしながら優しい社会づくりを発信している。

 今日も誰かがつぶやいてくれた。「iitokoがあって良かった」と。



特定非営利活動法人iitoko代表 浅香千恵 高崎市吉井町下奥平

 【略歴】幼稚園教諭や障害児の放課後デイサービスの職員を経験。2014年、障害児を育てる母親を支援する団体「iitoko」設立。高崎保育専門学校卒。

2018/12/05掲載

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