脳溢血と脳卒中
 脳卒中になって寝たきりになるのが心配だとか、親が脳卒中でなくなっているので自分も罹患するのではないかと不安だ、などと訴える方がたくさんいます。
 この場合、脳卒中と脳溢血は混同して使われています。以前は、脳欠陥の病気は、すなわち脳溢血であると一般的に認識され、「脳溢血」という言葉を聞くだけで大変な病気だと恐れられてきました。実際、最近までわれわれ日本人の死亡原因の第一位をしめていました。
 厳密に定義しますと、脳卒中とは突然におこる脳血管障害の総称です。その中には血管が破たんする出血性病変があり、高血圧性脳内出血やクモ膜下出血(クモマッカ)がこれに属します。これとは反対に血管がつまる梗塞性病変があり、脳血栓との脳塞栓などがこれに属します。
 「脳溢血」という用語は出血を意味していますが、別に梗塞においてみなさんが使われてもかまいません。両者の共通原因が脳の動脈硬化だからです。現に脳硬塞の治療中に梗塞巣(コウソクソウ)から出血する出血性梗塞という病態を私達はよく経験します。
 さきの総理大臣も脳硬塞に冒されましたが、その病状を悪化させたのはこの出血性梗塞であるといわれています。しかし医療現場での初期治療の段階では、患者さんの脳卒中の症状が、出血なのか、梗塞なのか、を瞬時に判断する必要に迫られます。なぜかというと、この時期ではそれぞれの治療法が全く異なるからです。たとえば出血をしている患者さんに梗塞に対する治療をしてしまいますと、病状を更に悪化させ、致命的になることもあるのです。また手術適応があるのに、その機会を逸してしまうことも起こり得るのです。これらの鑑別には、CTスキャンやMRIなどの画像診断が有効です。これらの機器は人類に多大な貢献をもたらしました。
 脳卒中はここ10年来、その発生率も死亡率も大幅に減少してきています。それはひとえに画像診断の飛躍的進歩と、治療法の創意工夫によることも多いのですが、それよりもまして、みなさんの病気に対する意識が昂揚し、動脈硬化の因子である高血圧症をはじめ、高脂血症・糖尿病・痛風・肥満・心臓病などの生活習慣病の予防と治療が充実し、さらにみなさんの生活様式の改善によるところが多いのです。
 ただし、脳卒中は救命し得ても種々の段階の後遺症が問題になります。患者さんの日常生活の質、日常の活動を向上させる長期にわたるリハビリテーションや精神的な援助が必要になります。そういう意味では、まだまだ侮れない病気であるとみなさんに再認識していただきたいのです。

2002年1月